読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

きまぐれ名画座年末年始スペシャル「閑古堂の年またぎ映画祭」その1

2021-12-30 14:05:00 | 映画のお噂
この年末年始は楽しく穏やかに過ごせそうかなあ・・・と思っていたら、オミクロン株とやらの「脅威」とやらを盛んに煽るマスコミ(いや、もうここは遠慮なく「マスゴミ」と言い切らせてもらいましょう)に踊らされる形で、またぞろ世の中がコロナだオミクロンだと錯乱しております。2年前からまったく、なんの進歩もしていない世の中の錯乱ぶりには胸くそが悪くなるばかりで、もうつくづく愛想が尽きます。
こんな胸くそ悪い気分を吹き飛ばすには、面白い映画を観るのが一番!ということで、年末年始にかけては、ここしばらく買い集めたDVDやBlu-rayで映画を観まくることにいたしました。名づけて「閑古堂の年またぎ映画祭」!
期間中はいくつかのテーマごとに作品を数本程度チョイスして、観ていくことにいたします。といいましても、そこはわたしの好みや趣味を反映した、かなり偏りのあるラインナップになるかと思いますが、そこはまあゴアイキョウということで。
ではこれより、観た作品を何回かに分けて、順次ご紹介していくことにいたしましょう。

まず最初の特集は「50年代SFクラシックス」。・・・と、いきなり趣味性全開のテーマ設定で恐縮なんですが(笑)。CG全盛の今からするとチープな面もあれど、SFの原初的な「センス・オブ・ワンダー」に溢れているのが、1950年代のSF映画であります。数ある中から、現在も高く評価されている3作品をチョイスいたしました。


年またぎ映画祭1本め『縮みゆく人間』(1957年 アメリカ)
監督=ジャック・アーノルド 製作=アルバート・ザグスミス 原作・脚本=リチャード・マシスン 撮影=エリス・W・カーター 音楽=ジョセフ・ガーシェンソン
出演=グラント・ウイリアムズ、ランディ・スチュワート、エイプリル・ケント
DVD発売元=ランコーポレーション

休暇の日、妻とボートでバカンスを楽しんでいたスコット・ケアリーは、海上に立ちこめた放射能を含んだ霧にさらされる。半年後、彼は自らの体が縮んでいることに気づく。それからも日々彼の体は縮んでいき、医学的な処置も縮小を止めることができない。ついには昆虫のように小さくなってしまい、飼い猫に追われて地下室へ転落してしまう。彼が死んだと思い込んだ妻は家を去って行き、ケアリーは一人地下室に取り残されることに・・・。
体が徐々に縮んでいく悲劇的な状況の中で、それでも生き抜こうとする主人公の闘いを描いた、リチャード・マシスンの小説の映画化です。可愛がっていた飼い猫が、まるで巨大な怪獣のように襲ってきたり、給湯器から漏れた水で溺れそうになったり、深い渓谷のようになった家具と家具のあいだを飛び越える羽目になったり・・・と、普段の何気ない生活の場が困難な別世界のごとく立ちはだかる状況が、巨大に作られたセットや大道具による撮影と合成技術との使い分けにより、なかなか効果的に表現されておりました。なかでも、自分よりも巨大になってしまったクモとの対決シーンは、ホンモノのクモを使って撮影されているだけに迫力がありました(クモ嫌いにはたまらないかも)。
ラストは救いのないものですが、悲劇的な状況を前にした主人公が「無限に小さいものと無限に大きいものは同一になる」といった哲学的な思考や、ちっぽけな人間にも存在する意味があると述べるところは、なんだか感動的でありました。


年またぎ映画祭2本め『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(1956年 アメリカ)
監督=ドン・シーゲル 製作=ウォルター・ウェンジャー 脚本=ダニエル・メインウェアリング 原作=ジャック・フィニィ『盗まれた街』 撮影=エルズワース・フレデリック 音楽=カーメン・ドラゴン
出演=ケヴィン・マッカーシー、ダナ・ウィンター、ラリー・ゲイツ、キング・ドノヴァン、キャロリン・ジョーンズ
DVD発売元=ランコーポレーション

夜の救急病院に、錯乱状態となった一人の男が搬送されてくる。その男=医師のベネルは、自らが遭遇したという恐ろしい出来事の一部始終を語り始める。彼が開業医を営むカリフォルニア州の街サンタ・ミラの住人からは、近親者が別人のように変わってしまったという相談が相次いで寄せられていた。やがて、宇宙からの侵略者が送りこんだ大きな豆のサヤのようなポッドによって、街の人々の複製が作り出されていることを知ったベネルは、恋人のベッキーとともに街から必死に脱出を図ろうとするが・・・。
宇宙からの侵略者がもたらす恐怖を描いた、ジャック・フィニィの小説『盗まれた街』の映画化で、その後3度リメイクされることになる侵略テーマSFの古典的名作です。監督はクリント・イーストウッドのヒット作『ダーティハリー』(1971年)などで知られるドン・シーゲル。また、彼の弟子筋で『ワイルドバンチ』(1969年)『ゲッタウェイ』(1972年)などを監督したサム・ペキンパーが脚本に関わっています(メーターの検針をする男の役で出演も。ただしノンクレジット)。
愛する人たちや、慣れ親しんでいたはずの街の人々が、顔かたちはそのままでも徐々に人間性を失った異なる存在へと入れ替わっていき、それらに取り囲まれ、追い詰められていく過程がサスペンスたっぷりに描かれていて、実によくできたSFホラーでした。冷戦下での共産主義の脅威が、作品の背景にあるともいわれますが、いま観るとコロナパニックの中で進んでいる理性や人間性の喪失と全体主義化を想起させるものがあって、リアルな恐ろしさを覚えました。まさに、いま観られるべき一本といえましょう。
主人公のベネルがヒロインのベッキーに語ったセリフが、とても気持ちに響いてきました。

「みんな少しずつだが、心の優しさが失われているようだ。残った者は人間性のために戦う事が大切だと、僕は思う」


年またぎ映画祭3本め『宇宙戦争』(1953年 アメリカ)
監督=バイロン・ハスキン 製作=ジョージ・パル 脚本=バリー・リンドン 原作=H・G・ウェルズ 撮影=ジョージ・バーンズ 音楽=リース・スティーブンス
出演=ジーン・バリー、アン・ロビンソン、レス・トレメイン
DVD発売元=NBCユニバーサル エンターテイメント

ある日、地球のあちこちに隕石が落下してきた。そこから姿を現したのは、火星からの侵略者たちが操る円盤型のウォーマシンだった。ウォーマシンは光線を放ちながら人々に攻撃を加え、街を焼き払っていく。軍隊が出動して反撃を加えるものの、まったく歯が立たない。打つ手のなくなった人類は、存亡の危機に立たされる・・・。
『タイム・マシン』や「透明人間」など、現代SFの基礎となる名作を次々と生み出した作家、H・G・ウェルズの代表作の映画化作品で、今もなおSF映画の名作として名高い傑作です。火星人と人類との攻防戦を、83分というコンパクトな時間の中でテンポ良く描いていて、観る者を引き込ませてくれます。
美しいカラー映像で展開される、特撮を駆使した派手なスペクタクルも迫力いっぱい。白鳥を思わせる優美なスタイルを持ちながら、地球側の攻撃などまるで問題にせず(核兵器もまったくの無力)、無慈悲に破壊と殺戮を進めていく、火星人の円盤型ウォーマシンの存在感はまことに圧巻でありました。マシンが発する独特の音もまた、いかにも往年のSFっぽい感じがして良かったですねえ。

(「その2」に続く)


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