NHKスペシャル『人体 ミクロの大冒険』第3回「あなたを守る! 細胞が老いと戦う」
初回放送=2014年4月6日(日)午後9時00分~9時49分、NHK総合
テーマ音楽=葉加瀬太郎、音楽=羽毛田丈史
出演=山中伸弥・野田秀樹・阿川佐和子・山本舞香
語り=首藤奈知子
『人体 ミクロの大冒険』シリーズ最終回のテーマは、細胞の「老化」と「死」。すでに人生後半戦に突入しているわたくしにとっても、なんだか気になるテーマなのでありました。
イタリアのサルデーニャ島。長生きの高齢者が多く、100歳を超えてなお元気な方も少なくないというこの場所で、延べ3000人の血液を採取して調べたところ、免疫細胞が20代と同じように効果的に働いていることがわかったとか。
全身に2兆個あるという免疫細胞。骨髄の「ニッチ」という場所で、1日に1000億個作られるといいます。
その免疫細胞の「司令塔」といえる存在が「T細胞」。体の中に入ってきた異物を、まずは樹上細胞が捕らえてT細胞のもとへと運びます。それがもし有害な病原体であると判断されると、T細胞は「サイトカイン」という物質を放出して他の免疫細胞に命令を下し、それを受けたマクロファージが病原体をどんどん食べていく•••。免疫のシステムは、このような見事な連携プレーによって、われわれの体を守ってくれているのです。
ところが、その免疫細胞が「暴走」を引き起こすことが、人が老いていくことの原因となることが明らかになってきたというのです。
大阪大学のバイオイメージング技術が、その「免疫細胞の暴走」を世界で初めて映像に捉えていました。そこには、マクロファージが、正常であるはずの肝臓の細胞にビッシリと群がり、攻撃している様子が鮮明に映っていたのです。
このマクロファージ、血管に貼り付いて血管の流れを滞らせることにより、動脈硬化の原因をつくってしまいます。また、メタボリック症候群も、免疫細胞の老化が関わっているとか。
なぜ免疫細胞は「暴走」するのか。それは、判断力を失ってしまったT細胞により放出されたサイトカインにより、全身のあらゆる箇所が「攻撃対象」となってしまうためでした。
骨髄で作られたT細胞は、まず心臓の上にある胸腺に送られ、溜め込まれます。このときのT細胞の表面には、異物を見分けるための「アンテナ」となる突起物が、既にビッシリと生えています。それは、さまざまな病原体に対応できるようにランダムに生み出され、それぞれが違う形の「アンテナ」を持つように特化されています。
ところが、これらT細胞は胸腺によって厳しい選別がなされ、その大部分は胸腺の壁で破壊されてしまいます。生き残るT細胞はわずか5%以下。こうして厳しく選別された精鋭たちが、病原体攻撃の前線へと送られていくのです。
そのようにT細胞を選別する胸腺は、なんと思春期を過ぎる頃には働きを止めた挙句になくなってしまいます。その結果、T細胞は一切補充されなくなり、やがて判断力を失っていった挙句に暴走していく•••というのが「老化」の正体でした。
この「免疫細胞の暴走」に挑戦しようという動きが始まっています。
番組の出演者でもある山中伸弥さんが属している京都大学は、iPS細胞を用いてT細胞を人工的に生み出し、大量に培養することにより免疫の暴走を抑えようとする試みに取り組んでいます。
また、再生させることは困難であった心筋細胞に「細胞シート」を貼り付け、壊死した心筋細胞を再生させようという治療法も実用化されてきています。細胞自身の力を活かした、再生医療の幕開けです。
番組のおしまいのほうで、山中さんはこのような趣旨のことを語っておられました。
「自分自身は老衰となって死んでいくのが理想だが、まだそこまで至らないのに、事故などで苦しい思いをしている人たちもいるので、それをなんとかしたい。運命には変えられないものもあるけれど、変えられる運命は『運命』ではない」
もちろん、番組で紹介されていたiPS細胞を用いた試みはまだまだ研究段階なのですし、これが免疫細胞の「暴走」への切り札になれるかどうかは、まだまだ未知数でしょう。これは、ぜひとも研究の進展を待ちたいところです。また番組中でも話題にされていたように、どこで線引きをするのかということも、しっかりとした議論がなされてしかるべきでしょう。
ですが、山中さんが語った「変えられる運命は『運命』ではない」という言葉を、わたくしは信じてみたいとも思うのです。
再生医療に限らず、変えられる運命を少しでも変えようと挑戦していくことが、人間と社会の進歩と向上に繋がっていくのですから。
シリーズを通して観て、生体の中の様子をつぶさに観察できるバイオイメージング技術の進歩が、人体におけるさまざまな未知の部分を解明していっていることに、素朴な驚きとワクワク感がありました。
これからもさらに、人体という小さな宇宙の未知の部分が、いろいろと明らかになっていくことでしょう。まだまだ、驚きとワクワク感を味わうことができそうですね。
初回放送=2014年4月6日(日)午後9時00分~9時49分、NHK総合
テーマ音楽=葉加瀬太郎、音楽=羽毛田丈史
出演=山中伸弥・野田秀樹・阿川佐和子・山本舞香
語り=首藤奈知子
『人体 ミクロの大冒険』シリーズ最終回のテーマは、細胞の「老化」と「死」。すでに人生後半戦に突入しているわたくしにとっても、なんだか気になるテーマなのでありました。
イタリアのサルデーニャ島。長生きの高齢者が多く、100歳を超えてなお元気な方も少なくないというこの場所で、延べ3000人の血液を採取して調べたところ、免疫細胞が20代と同じように効果的に働いていることがわかったとか。
全身に2兆個あるという免疫細胞。骨髄の「ニッチ」という場所で、1日に1000億個作られるといいます。
その免疫細胞の「司令塔」といえる存在が「T細胞」。体の中に入ってきた異物を、まずは樹上細胞が捕らえてT細胞のもとへと運びます。それがもし有害な病原体であると判断されると、T細胞は「サイトカイン」という物質を放出して他の免疫細胞に命令を下し、それを受けたマクロファージが病原体をどんどん食べていく•••。免疫のシステムは、このような見事な連携プレーによって、われわれの体を守ってくれているのです。
ところが、その免疫細胞が「暴走」を引き起こすことが、人が老いていくことの原因となることが明らかになってきたというのです。
大阪大学のバイオイメージング技術が、その「免疫細胞の暴走」を世界で初めて映像に捉えていました。そこには、マクロファージが、正常であるはずの肝臓の細胞にビッシリと群がり、攻撃している様子が鮮明に映っていたのです。
このマクロファージ、血管に貼り付いて血管の流れを滞らせることにより、動脈硬化の原因をつくってしまいます。また、メタボリック症候群も、免疫細胞の老化が関わっているとか。
なぜ免疫細胞は「暴走」するのか。それは、判断力を失ってしまったT細胞により放出されたサイトカインにより、全身のあらゆる箇所が「攻撃対象」となってしまうためでした。
骨髄で作られたT細胞は、まず心臓の上にある胸腺に送られ、溜め込まれます。このときのT細胞の表面には、異物を見分けるための「アンテナ」となる突起物が、既にビッシリと生えています。それは、さまざまな病原体に対応できるようにランダムに生み出され、それぞれが違う形の「アンテナ」を持つように特化されています。
ところが、これらT細胞は胸腺によって厳しい選別がなされ、その大部分は胸腺の壁で破壊されてしまいます。生き残るT細胞はわずか5%以下。こうして厳しく選別された精鋭たちが、病原体攻撃の前線へと送られていくのです。
そのようにT細胞を選別する胸腺は、なんと思春期を過ぎる頃には働きを止めた挙句になくなってしまいます。その結果、T細胞は一切補充されなくなり、やがて判断力を失っていった挙句に暴走していく•••というのが「老化」の正体でした。
この「免疫細胞の暴走」に挑戦しようという動きが始まっています。
番組の出演者でもある山中伸弥さんが属している京都大学は、iPS細胞を用いてT細胞を人工的に生み出し、大量に培養することにより免疫の暴走を抑えようとする試みに取り組んでいます。
また、再生させることは困難であった心筋細胞に「細胞シート」を貼り付け、壊死した心筋細胞を再生させようという治療法も実用化されてきています。細胞自身の力を活かした、再生医療の幕開けです。
番組のおしまいのほうで、山中さんはこのような趣旨のことを語っておられました。
「自分自身は老衰となって死んでいくのが理想だが、まだそこまで至らないのに、事故などで苦しい思いをしている人たちもいるので、それをなんとかしたい。運命には変えられないものもあるけれど、変えられる運命は『運命』ではない」
もちろん、番組で紹介されていたiPS細胞を用いた試みはまだまだ研究段階なのですし、これが免疫細胞の「暴走」への切り札になれるかどうかは、まだまだ未知数でしょう。これは、ぜひとも研究の進展を待ちたいところです。また番組中でも話題にされていたように、どこで線引きをするのかということも、しっかりとした議論がなされてしかるべきでしょう。
ですが、山中さんが語った「変えられる運命は『運命』ではない」という言葉を、わたくしは信じてみたいとも思うのです。
再生医療に限らず、変えられる運命を少しでも変えようと挑戦していくことが、人間と社会の進歩と向上に繋がっていくのですから。
シリーズを通して観て、生体の中の様子をつぶさに観察できるバイオイメージング技術の進歩が、人体におけるさまざまな未知の部分を解明していっていることに、素朴な驚きとワクワク感がありました。
これからもさらに、人体という小さな宇宙の未知の部分が、いろいろと明らかになっていくことでしょう。まだまだ、驚きとワクワク感を味わうことができそうですね。
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