『珍島巡礼』
イカロス出版(イカロスMOOK)、2013年
かっちりした本を読む合間などに「箸休め」的に読んだ本をご紹介する「今週の箸休め本」。
前回からすでに2ヶ月以上経っているので(苦笑)、再度ご説明しておきますと、箸休め本といっても決して下に見ているわけではございません。軽く読めながらもいろいろなことを知ることができ、なんだかトクしたような気持ちになるような本というのもあるわけでして、そういった本をご紹介しようということなのです。また、「今週の」と言いつつも毎週ご紹介するということではないということを、くれぐれもお断り申し上げておきます。
さてさて、今回ご紹介するのはこの『珍島巡礼』というムック本です。
大小さまざまな島からなる島国・日本。その数なんと6852にも及ぶ数多くの島の中から、自然の絶景を誇る島や、知られざる歴史やユニークな伝統行事を持つ島などを、豊富な写真とともに50島以上紹介した一冊であります。
第1章は「島の自然が作る絶景」。世界的に見ても珍しい動植物に恵まれた父島・母島(東京都)、樹齢2700年の「縄文杉」をはじめとした巨木に圧倒される屋久島(鹿児島県)、日本で唯一の砂漠が広がる伊豆大島(東京都)などがここで紹介されます。
1983年の大噴火を含め、20年に1回のペースで噴火が起きている三宅島(東京都)では、今でも有毒ガスにより立ち入りはできないエリアがあり、島内ではガスマスクの携帯が義務付けられているということを初めて知りました。
第2章は「島で見る近現代の歴史」。ここでなんといっても目を引くのは、「軍艦島」の別名で知られている長崎県の端島(はしま)。かつては炭鉱の島として栄え、最盛期には5000人以上が高層住宅で暮らしていましたが、炭鉱の閉山とともに無人島となり、さまざまな建物の廃墟だけが残るという、あの島です。
人気、知名度とも高い島だけあって、軍艦島を紹介したページは写真や資料を含めてなかなかの充実ぶりです。中でも島の建物を図示した見取り図には見入ってしまいました。一つ一つの建物の用途や建築年が記されたそれを見ると、建物の配置にはちゃんとした意味があったことがわかったり、島の発展の歴史が垣間見えたりして、まことに興味の尽きないものがありましたね。
この章では他に、日本最西端の地である与那国島(沖縄県)における、戦後の密貿易についての記述も面白いものでした。米軍キャンプから盗み出した銃火器や配給物資を台湾や香港に売って儲けたという闇景気を牽引したのが、なんと女性だったとは!
第3章は「島の伝統行事・芸能」。ここでは大三島(愛媛県)の神社で年2回行われる神事に注目です。土俵に上がった力士が、誰にも見えない相手に真剣勝負を挑むという、文字通りの「一人角力」。見えない相手は稲の精霊で、豊作祈願と収穫への感謝を表す由緒正しい神事なのですね。
この「一人角力」、以前NHKのニュース番組の中で見たことがあったのですが、力士役の男性がいかに見る人に喜ばれる「勝負」を見せるかに腐心している様子が伝わってきて、これはなかなかのエンタテインメントだわい、と思ったものでした。一度でいいから目の前で見てみたいものです。
他に見逃せないのが、福江島(長崎県)で行われる「へトマト」なる民俗行事。妙な語感の名前の由来も起源も一切不明というこの祭り。神社での奉納相撲から始まって、女性2人がなぜか酒樽の上に乗っかって行われる羽根つきや大綱引きなどの催しが脈絡もなく続き、最後の神社への大草履奉納では、道中で未婚の女性を見つけては草履の上にポンポン放り上げて胴上げするというおまけ付き。ホント、何から何までなんだか意味がわからないのであります。
第4章は「なかなか行けない島」。渡航手段は週2回の船便だけという南の秘境、トカラ列島(鹿児島県)や、台風などでたどり着けないことも多く就航率は50%という利島・青ヶ島(東京都)などが登場します。また北方領土(北海道)や竹島(島根県)、尖閣諸島(沖縄県)といった国境問題を抱える島々も、ここで紹介されています。
第5章は「さまざまな埋立地」。ここでは中央防波堤埋立処分場(東京都)や、1975年の沖縄海洋博の会場となったアクアポリス(沖縄県。ただし2000年に撤去され消滅)、関西国際空港(大阪府)などの空港島といった人工の島を紹介。コラムでは空港島の作り方も説明されていて、これもなかなか興味深いものがありました。
最後の章が「その他のおもしろ島々」。ここではやはり、住民よりネコの数のほうが多いという、ネコ好きにはまさに天国のような田代島(宮城県石巻市)に注目です。東日本大震災による大津波はこの島にも容赦なく押し寄せたのですが、ネコたちの多くが島の中央にある「猫神社」へ逃げ延びて無事だったとか。この田代島、いつか訪ねてみたいなあ。
本書は写真だけでなく、コラム記事を含めて文章による記述も豊富で情報量が多く、それぞれの島の持つ面白さや興味深さがしっかりとわかりました。
島への憧れを持ちながらも、なかなか時間などの都合で行けずにいるわたくしは、読みながらあらためて「やっぱり島って面白い!」という思いが募ったのでありました。
【関連オススメ本】
『原色 日本島図鑑 日本の島443 有人島全収録』
加藤庸二著、新星出版社、2013年(写真は2010年刊行の旧版です)
日本全国の島々を踏破している著者が、人が住んでいる島すべてを写真と文章で紹介し、あわせて地図や基本データを付した、まさしく島のエンサイクロペディアです。島好きにとっては座右に置く価値あり。掲げた写真はわたくしの手元にある旧版ですが、2013年に北方領土や竹島、尖閣諸島などを増補し、データを最新のものに改めた新版が出ています。
『離島の本屋 22の島で「本屋」の灯りをともす人たち』
朴順梨著、ころから、2013年
北海道の礼文島から、沖縄県の与那国島まで、22の島々で島民のために本を届けようと奮闘する本屋さんを訪ね歩いたルポルタージュです。一編一編は短めながら、それぞれの本屋さんの日常と、島の人たちの生活や風土が、暖かな視線とともにしっかりと浮かび上がってくる好著であります。
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