読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

NHKスペシャル "認知症800万人"時代『行方不明者1万人 ~知られざる徘徊の実態~』

2014-05-11 23:32:26 | ドキュメンタリーのお噂
NHKスペシャル "認知症800万人"時代『行方不明者1万人 ~知られざる徘徊の実態~』
初回放送=2014年5月11日(日)午後9時00分~9時49分、NHK総合
語り=柴田祐規子


認知症となり、行方不明となった高齢者たち。NHKの調べによれば、その数は2012年の1年間でのべ9600人を超え、うち亡くなった方が351人、見つからないままの方が200人を超えていたといいます。
徘徊を繰り返すうちに命の危険にさらされることも少なくなく、自動車や列車にはねられて亡くなる方もいます。また、列車にはねられて亡くなったお年寄りの家族が鉄道会社から訴えを起こされ、賠償を命じられるケースが出るなど、徘徊は当人を見守る家族にとっても重い負担となっている現実があります。
昨年2回にわたって放送された「認知症800万人時代」の第3弾として制作されたこの番組は、見過ごされてきた徘徊をめぐる実態に迫ります。以下、番組の内容のおおまかな書き起こしです。

秋田県の横手市。2年前に行方不明となった母親を探す夫妻がいます。行方不明になる3年前から認知症の症状が見られたという母親は、朝の散歩に出かけたまま戻りませんでした。警察などによる捜索が行われましたが、事件性は低いということで3日間で打ち切りとなってしまいました。
夫妻は手がかりを求めて方々を回りますが、これといった手がかりは掴めないままです。妻は言います。
「あきらめと疲れも入っているかもしれない。でも、いい情報があれば動きたい」
妻は、食事の時には今でも、母親の分を取り分け続けています。
「半分ままごとみたいだけど•••見つかったらお風呂に入れて、ご飯をよそってあげたい」

徘徊の末に亡くなってしまった方のうち、6割近くは自宅の近くで発見されているということが、これもNHKによる調べで判明しています。
おととし、徘徊の末に亡くなった東京の女性は、行方不明の届けを出した1週間後に発見されました。女性の娘さんが語ります。
「全然、死に方が理解できなくて、しばらくは気持ちの整理ができないままでした」
女性が発見されたのは、自宅の真向かいにある民家の裏にある塀の隙間でした。塀のそばには人通りの多い道がありましたが、民家の住人に発見されるまで誰も気づくことはありませんでした。
女性の娘さんは、尋ね人のチラシをつくったのが不明から6日後と遅くなってしまったことを悔やみつつ、こう語りました。
「これは家族で探さなければならない問題と思っていたし、他の人に一緒に探してもらうことは、ちょっと無理かなというのがありました」

無事に発見されても、身元がわからないまま自宅に戻れないという方もおられます。
大阪でおととし保護された男性。自分の名前や住所を言うこともできないまま、介護施設で暮らしていました。のみならず、施設でも自分の部屋がわからなくなってしまうことも。しかしこの男性は、テレビのニュースで取り上げられたことがきっかけとなり、兵庫県の自宅へと帰ることができました。
一方、群馬県の介護施設で7年間暮らしている女性。深夜に徘徊していたところを交番に保護されましたが、やはり名前や住所を言うことができないまま、介護施設で暮らすことに。
発見されたとき、女性はとても身ぎれいで上品な感じだったといいます。さらに、女性は衣類に名前が書かれていたり、結婚した日付などが刻まれた指輪を所持していたりと、多くの手がかりになるようなものを身にしていました。
が、警察の情報共有システムで名前を検索したところ、該当する名前はありませんでした。群馬県警は顔写真などを掲載した資料を各地に配布しましたが、それでも身元は不明のまま。
年月が経ち、発見された頃には笑顔もあった女性は次第に無表情となり、現在は寝たきりとなり話すこともままならない状態に。大好きな歌という「高校三年生」を耳にしても、無表情のまま、ただかすかに手を動かしているのみでした•••。

徘徊する当人を見守っている家族たちの負担も、とても重いものがありました。
大阪で、徘徊がひどくなった妻を見守っている夫。妻はこれまで何度も行方不明となり、地下鉄の階段から転落して病院に担ぎ込まれたことも。柵が設けられた2階のベランダを越えて、3メートル下に飛び降りたことも。
妻は何度も地下鉄で発見されていることから、実家へ帰ろうとしているのではないか、と夫は推測します。しかし、その自宅はすでに存在しないことを何度言い聞かせても、妻は帰ろうとするのです。
夫は玄関にはカギをかけない代わりに、人が通ると反応するセンサーを取り付けています。番組の取材中にも、幾度となく外に出ようとする妻。夫は疲れ果てたように言います。
「部屋から出したくないのならカギをかけて閉じ込めておけばいいのだろうけど•••牢獄じゃないけど、そこまではしたくない。どうすればいいのかなあ•••」

さらに難しい状況にあるのが、一人暮らしの認知症高齢者です。
大阪に住む86歳の男性。10年ほど前に妻を亡くして以来一人暮らしの男性は、これまでにも2回行方不明となり、警察に保護されています。
男性は週2回、デイサービスに通っているほか、訪問介護のヘルパーさんがやってきて身の回りの世話をしてくれています。しかし、現在の介護保険のもとでは(行動には支障がないと見なされていることもあり)サービスを受ける時間は短く、常に見守るのは困難な状態です。
自治体などは介護施設への入居を勧めようとしたのですが、介護施設には空きがない上、当人が自宅に居たいということもあり、当面はこのままの状態で見守るしかない、と。

徘徊するお年寄りをどう守るのか。先進的な取り組みが、北海道の釧路市で行われていました。
釧路市では、警察からの行方不明情報が街全体で共有されるという「SOSネットワーク」を、20年にわたって構築しています。
行方不明者の特徴などが記された、警察からの「手配書」が、周辺の自治体やFMラジオ局、タクシー会社、ガソリンスタンドなど、350もの協力機関に共有されます。FMラジオ局では情報が入り次第、番組を中断してその情報を放送、それは発見されるまで30分おきに繰り返されます。そのようにして共有された情報は市民による徘徊者の発見にも役立ち、市民による発見数が警察による発見数をわずかながら上回るという成果も上がっているとか。
この「SOSネットワーク」、いくつかの自治体でも導入はされているようなのですが、活発に稼働している自治体は少なく、多くは関係機関との連携がうまくいかないとの理由で適切に活かされていないというのが実状とか。
ネックとなっているのが、個人情報の取り扱いです。釧路市では、行方不明者の家族の同意がなくても、情報を協力機関に提供できるよう、条例に例外規定を設けることで、システムを有効に機能させているといいます。その例外規定とは「命を守るためには(情報を)提供できる」。
このシステムにより、行方不明になった妻を見つけることができた男性。妻が認知症であることを、他人には知られたくないという気持ちがあったといいます。
「身内がそうなったら恥ずかしいというのがありましたね。やはり古い人間だから。でも、おかげで無事に見つけられてありがたいと思う」

身元がわからないままになっている認知症のお年寄りについて、「制度のエアポケットにはまってしまっている」とのコメントがありましたが、現今の諸制度はあまりにも、認知症高齢者に対する対応において不備が多いのではないのか、という思いを抱きます。
同時に、釧路市の行方不明者の家族の話にあったように、認知症に対するわれわれの認識も、まだまだ立ち遅れているものがあるのかもしれません。
いまや、認知症はけっして他人事とは言えない以上、固定観念を排した上で、認知症高齢者とその家族へのサポート体制を、さまざまな知恵とアイディアを出し合って構築していくようにしていかなければ。そう強く感じさせられた番組でした。


NHKスペシャル “認知症800万人時代” 過去2回についての記事はこちらです。
NHKスペシャル “認知症800万人”時代『母と息子 3000日の介護記録』
NHKスペシャル “認知症800万人”時代『“助けて”と言えない 孤立する認知症高齢者』


〈追記〉
『行方不明者1万人』が放送された翌日の5月12日。身元がわからないまま、群馬県の介護施設で暮らしていた女性が、7年ぶりに夫との再会を果たした、とのニュースが。驚きました。まさか放送の翌日に、このような急転直下の動きがあるとは。
女性は、かつてニッポン放送でアナウンサーをされていたという東京の方。保護されたとき身ぎれいで上品だったというのは、そのような経歴があったから、なのでしょうか。
ようやく再会を果たしたということはせめてもの救いでしたが、認知症の進行により、夫と会話を交わすこともままならない状態。「もう少し早く見つかっていたなら、病状を遅らせることができたのでは•••」という、夫の言葉が重く響きました。
これを機会に、行方不明者に関する適切な情報の共有が進み、一日も早い家族との再会が果たせるような仕組みづくりへの動きが広がることを、あらためて願ってやみません。(5月14日、記)


閑古堂の酔眼亭日乗、五月九日及五月十日

2014-05-10 22:40:21 | 美味しいお酒と食べもの、そして食文化本のお噂
五月九日。晴。日中の気温は既に初夏そのものの感じとなるなり。
仕事の後、市内の某ホテルのスパにて汗を流す。脱衣場にて、年の頃初老と思しき男、宮崎にては日曜祝日を店休にする店が多いことを歎きつつ、宮崎の人は馬鹿なり馬鹿なりと頻りに言えり。言っていること自体には頷けるところもありしが、そのように言い募る態度に毫も知性を感じず些か滑稽なり。そも、その夫子自身もその宮崎に住む者の筈なりしが、それを何処かに置き忘れたかのような態度が悲しくもありけり。
スパから出ると時刻は丁度燈刻。繁華街に向かう途中、さる焼鳥店の店先に、あたかも開店を待つかのごとくちょこんと座り込んだ猫の姿を見ゆ。些か疲労せし気分を和ませるものがあり。

その焼鳥店とは別の、余が常連としている焼鳥店に至りて憩う。30種類近くある串焼の中から気の向く儘に選んで食す。主人の手により丁寧に焼かれし串焼の数々は誠に美味なり。

串焼とともに冷奴も注文す。懇意にしている豆腐店より仕入れるというこの店の豆腐は、豊かな大豆の味が口一杯に広がって絶品なり。因みに同じ豆腐店から仕入れる厚揚も、また酒肴として格別のものがあり。

串焼の後は牛もつ煮を注文す。こちらは旨味溢れるもつに味噌仕立の煮汁が絡み、焼酎の友として最上なり。

この焼鳥店の店名を此処に記して広く知らしめたいほどの良店なりしが、主人が自店の宣伝をすることには慎重な姿勢ゆえ此処には記さず。あまり広く知れ渡ると、店の雰囲気を壊す様な客が来ることになるからというのがその理由なり。以前には、他の客の迷惑になる様な客はお断りしているんですよ、という話も聞けり。それもまた一つの見識ならんや。客としては美味な料理や酒のみならず、その店の雰囲気に対しても金を払う故、その雰囲気をしかと守るのは店の価値を高めることにもなれり。現に、この店は真に居心地良く落ち着いて飲食のできる空間として、多くの常連客から支持される存在となりし。余はこの店の常連であることを喜ぶなり。
この夜も、子どもを含む家族連れが座敷で寛ぎ、店内は和気藹々として微笑ましいものがありたり。

焼鳥店を後にして繁華街を散策す。中央通を歩く度に気になる存在であったジェラート店に初めて立ち寄り、ブルーベリーヨーグルトのジェラートを購って食す。爽快な甘酸っぱさが飲んだ後の臓腑に優しく実に佳味なり。

その後バーに立ち寄りしか否かと迷うも、些か飲み過ぎたかのように思われて、結局はそのまま帰宅す。やはり余も、些か酒が弱くなりしか。嗚呼。


五月十日。晴。昼過ぎまで仕事。文庫本の『フェルマーの最終定理』と『サードマン 奇跡の生還へ導く人』を購入して帰宅しようとするも、自転車の前輪がパンクしていることに気付き、職場近くの自転車店にてタイヤを替え、想定外の出費となりし。嗚呼。
帰宅の途中、家の近くのスーパーマーケットにて「綾ワイン」を購入す。先日綾町を訪れた折に立ち寄った、地元の大手酒造会社が運営する「蔵元 綾 酒泉の杜」にて土産に購入しようと思いしが、荷物になるのが億劫で結局は購入を控えし。それが近くのスーパーで売られているのに気付いた故、購入した次第なり。

購入せしは「酒泉の杜」で試飲した折に一番美味と感じられたデラウェアで、甘さと辛さのバランスが取れた飲み口が実に爽快なり。
普段ビールか焼酎ばかりで、長らく自前にてワインを飲むことなかりし故、コルク栓を抜くのに些か四苦八苦せしが、無事に開栓す。時にはワインを飲むのも良きものなり。

【読了本】『江戸の理系力』 変化に対する多様性を備えた「和魂和才」の精神を見直す

2014-05-08 21:35:46 | 本のお噂

『江戸学入門 江戸の理系力』
洋泉社編集部編、洋泉社、2014年(元本は2012年、洋泉社MOOKとして刊行)


天文学や暦学、測量術、医学、数学などの分野において、実は世界水準を超えるものがあった、という江戸時代の日本の科学・技術。それをあらためて見直してみようというのが、本書『江戸の理系力』であります。
読みやすくわかりやすい編集で、いわゆる「雑学本」として気軽に読めるような体裁なのですが、初めて知ったこともけっこうあって、興味深く読むことができました。

まず第1章は「江戸の天文暦学」。陰陽道との結びつきが深く、もっぱら吉凶を占うという面が強かったというそれまでの天文暦学に、初めて科学的なやり方でつくった独自の暦を生み出した、渋川春海(はるみ)の業績が詳しく紹介されています。
本屋大賞を受賞して映画化もされた、冲方丁さんの小説『天地明察』の主人公でもある人物ですが、わたくしは小説も映画も未見ということもあって、恥ずかしながら春海の業績についての詳細は本書で初めて知りました。もともとは「碁方」、すなわち幕府お抱えの碁打ちだったという経歴や、その碁がとりなす縁によって幕府の実力者でもあった会津藩主・保科正之と懇意になり、のちに貞享の改暦事業の助けとなった、というあたりは面白いものがありました。
驚かされたのが、医者をやるかたわら独学で天文学を研究していたという麻田剛立(ごうりゅう)なる人物。なんと、ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーが導いた「ケプラーの第3法則」(惑星の公転周期の2条は軌道の長半径の3乗に比例する、というもの。ニュートンの万有引力の法則を導いた)を、日本に伝わる前に見出していた可能性がある、というのです。あくまでも「可能性」ということではありますが、事実とすればすごいことではありませぬか。さらに麻田は、望遠鏡で天体観測を行って日本初の月面図も描いていたとか。つくづくすごい人物だったんだなあ。

第2章は「江戸の測量術」。となるとやはり欠かせないのが「四千万歩の男」伊能忠敬。足かけ17年、踏破距離3万5000キロに及んだ測量の旅をこなした忠敬ですが、その測量術は同時代の日本においては目新しいものではなかったとか。
丹念な測量と、正確にデータを扱う慎重さ、そして「誰もができるものではあるが、手間が増えることからなかなか実行されるものではない」誤差を減らすための工夫と努力による精度の高さこそが、忠敬の仕事の価値の高さでもあるのだ、ということを再認識いたしました。

第3章は「江戸の医学」。『解体新書』を翻訳出版した杉田玄白や前野良沢、日本初どころか世界初となる全身麻酔による手術を成功させた華岡青洲といった人々の業績が紹介されているのですが、それらの業績を導いた日本の医学の発達史に興味をひかれました。
日本固有の医学「和方」、朝鮮半島から伝来した「韓医学」、中国から伝来されて日本人に合うように改変された「中医学」が合わさった「漢方医学」。それは江戸時代にいたってさまざまな学派が生まれて百家争鳴の様相を呈します。その背景にある人体と病に対する真理探究の熱意と、さまざまな論が提唱されたことによる人体への理解が、明治維新後に近代的医学を受容する受け皿になった、といいます。
また、薬になる動植物や鉱物を知るための学問「本草学」の歩みも興味深いものでした。古代中国で生まれ、日本に伝わった本草学は、貝原益軒の『大和本草』により日本独自のものへと変貌していき、やがて博物学的な側面を帯びるに至ります。この本草学の発展も、明治維新後に近代科学を受け入れる下準備になった、と。
江戸時代に培われた下地は、その後の近代医学や科学の進展にも寄与するところが大きかったということを、あらためて知ることができました。

第4章は「江戸の数学・和算」。クイズのように問題と解答をリレーしてゆくという「遺題継承」と、新しい問題を「算額」という額に美麗な図入りで書き出して神社に奉納する「算額奉納」により、庶民にも急速に普及したという「和算」。それは実学でもあるとともに、ゲーム的な要素が盛り込まれた娯楽としても受容されていたとか。うーむ、なんだか楽しそうな。こういうカタチで数学を学んでいたら、オレも数学が苦手にならずに済んだかもしれんな(笑)。
高等数学のレベルにまで達していたという和算は、天体観測で緯度を導き出していく測量や、星や太陽の運行を精密に測る天文暦学にも必須だった知識でもありました。これまで見てきたさまざまな分野はそれ一つだけではなく、各々が連関することにより発達してきた、というわけなのですね。

第5章では、江戸時代に活躍した理系人9人が紹介されます。
本草学に医学に文学に絵画にと多方面への関心を持っていた「マルチ人間」平賀源内や、地震予知器やエレキテルを作るなど、実は理系人でもあった思想家・佐久間象山などが取り上げられています。
わたくしは初めて知った人物でしたが、からくり人形で腕を振るった細川半蔵が、その仕組みを図入りで解説した書物に記したという序文の一節が印象的でした。

「多くのものを見て、記憶すること。知識と経験が積み重なって、そこから新しいものが生まれる。」

本書の冒頭では、渋川春海を主人公にした『天地明察』の著者・冲方丁さんと、国立科学博物館の鈴木一義さんとの対談が収められています。
その中で冲方さんは、「八百万の神々を信じながら、同時に合理的な概念を受け入れられる」という、江戸人の「とても不思議でゆるやかな秩序」を指摘。それを受けた鈴木さんは、「それがいろんな変化に対して多様性のある社会をつくっていき、科学はその上に積み上げられていったのでしょう」と語ります。
そして鈴木さんは、今の時代には「和魂漢才」や「和魂洋才」ではなく「和魂和才」があるべき形だと言い、こう続けます。

「今まで得た知識をフル活用して、誰もやらなかったことにチャレンジし、新たな世界に踏み出していく勇気が、今の日本人には必要ですね。」

地道に、かつ貪欲に知識を摂取していき、それによっていろいろな変化に富んだ社会を作り上げていくという江戸の理系人たちの知恵と向上心。翻って、江戸の頃より遥かに進んだテクノロジーを獲得しているはずの現代日本人のほうが、ある意味変化に対して頑ななところがあるように思えます。
いろいろな変化に富んだ、多様性があって面白い社会を作り上げていくことは、個人のみならず社会の可能性を開いていくことにも繋がっていくはずです。
その意味でも、江戸の理系人たちからはまだまだ、学べることが多々あることに気づかせてくれた一冊でありました。

5月刊行予定新書新刊、個人的注目本10冊

2014-05-01 22:35:03 | 本のお噂
これを書いてアップするきょう(5月1日)現在は、大型連休の狭間となる平日でありますが、すでに先週末から11連休をたっぷり満喫している真っ最中!という向きもおられるのかもしれませんね。
今週いっぱいはお仕事ということで、大型連休なんぞいったいドコの国のハナシじゃ?などとヒガんでいるわたくしめですが、それでも2~3日程度の連休は取れそうな感じなので、ちょっとウキウキしております。
とはいえ、今のところは近郊へのサイクリングを予定しているくらいで、別段遠出をするつもりもございません。あとは、ウチでたっぷり読書にでも耽ろうかなあ、などと思ったりしております。なんせ、読みたい本読まねばならぬ本がどっさりと溜まっておるでの、ふふふ。さーて、何を読むことにしようかのう、ふふふふふ。
さて、そんなわたくしの元に、5月刊行予定の新刊新書の一覧が届いてまいりました。この中からまた、わたくし個人が気になる書目を10冊ピックアップしてご紹介してみたいと思います。なにか皆さまにも「お、これは!」と引っかかるような本がありましたら幸いです。
刊行データや内容紹介については、書店向けに取次会社が発行している情報誌『日販速報』の4月21日号、4月28日号、5月5日/5月12日合併号とその付録である5月刊行の新書新刊ラインナップ一覧に準拠いたしました。発売日は首都圏基準ですので、地方では1~2日程度のタイムラグがあります。また、書名や発売予定は変更になることもあります。


『エピジェネティクス 新しい生命像をえがく』 (仲野徹著、岩波新書、20日発売)
「ゲノム中心の生命観を変える、生物科学の新しい概念『エピジェネティクス』。自然の妙技と生命の神秘を語る」という本書。オススメ本紹介サイト「HONZ」でも秀逸なレビューを書いておられる仲野徹さんの著書というだけでも注目ものなのですが、先だってのNHKスペシャル『人体 ミクロの大冒険』の背景ともなっていたエピジェネティクスがテーマということで、さらに興味津々。5月刊行予定の新書の中では、個人的には一番の注目本であります。

『生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像』 (中沢弘基著、講談社現代新書、15日発売)
これもまた生命科学がらみの書目ですね。「『生命はなぜ生まれ、なぜ進化し続けるのか?』。生命科学最大の謎を初めて解き明かしたサイエンスミステリーの傑作。一気読み必至!」ですと。地球史から読み解く、というあたりにも惹きつけられるものがあるのですが、「一気読み必至!」とはまた大きく出たもんじゃないですか。これにも、ちょいと期待しておきたいと思います。

『非線形科学 同期する世界』 (蔵本由紀著、集英社新書、16日発売)
「メトロノームがリズムを合わせて振れる、何万匹ものホタルが同時に明滅する•••など、世界にあふれる『同期現象』の数々。知られざる物理法則を解読する」と。この「同期現象」というのも、なんだか不思議で気になる現象なんですよね。一般向けの新書で、その謎にどこまで迫っているのか、これも注目です。
さて、ここまでの3冊はすべてサイエンスがらみの書目となりましたが、このあたりで何か違う分野からもチョイスしたいところです•••。

『経団連 落日の財界総本山』 (安西巧著、新潮新書、16日発売)
ようやくサイエンス以外の書目からチョイスできました。「新興企業はそっぽを向き、中核の老舗企業群も余裕を失う中、『財界総本山』に明日はあるのか。一線の経済記者が肉薄する」とのこと。わたくしも、今の経団連は時代からすっかりズレてしまって存在価値が薄らいでいるのではないのか、との思いをしばしば抱くものですから、この本がどこまで経団連の内実に迫れているのか、気になります。

『日本の雇用と中高年』 (濱口桂一郎著、ちくま新書、7日発売)
「激変する雇用環境。年齢が足枷になって再就職できない中高年。解決策は『長く生き、長く働く』しかない。そのための制度設計とは」。わたくしも一応、中高年の入り口に立っておりますゆえ、なんだか切実に気になってしまう本書のテーマに、ついついここにチョイスしてしまった次第であります。とりあえず読んどかないとな。

『めざせ!日本酒の達人 新時代の味と出会う』 (山同敦子著、ちくま新書、7日発売)
同じくちくま新書から、楽しそうなテーマのこちらを。「最高に美味しい日本酒に出会える時代!バラエティ豊かな味の揃った時代に、好みの味に出会うための方策を伝授」とのこと。日本酒もバラエティ豊かになってきたがゆえに、どれを飲んだらいいのかが見えにくいのも確か。いい手引きとなってくれるような内容になっていればいいなあ、という期待を込めてチョイス。

『世界史の悪役 辣腕、無私、洞察力の51人に学ぶ』 (本村凌二著、中公新書、下旬)
「時代の波に翻弄された悪役たちの横顔を紹介し、隠れた名脇役たちの活躍に光を当てる。歴史を動かした、影の実力者たちの列伝」と。サブタイトルといい、内容紹介文といい、「悪役」というイメージに隠されてしまっている、それぞれの人物たちの素顔や哲学に迫った内容となっているようですね。どのような人物たちが取り上げられているのでしょうか。面白そうだな。

『日本鉄道史 蒸気車模型から鉄道国有化まで』 (老川慶喜著、中公新書、下旬)
中公新書からももう一冊。「日本の全国的な鉄道網はどのように形成されたのか。ペリー来航から新橋~横浜間の鉄道開業を経て、鉄道国有化に至る50年の歴史」という本書。鉄道の歴史を通して、日本の交通史や近代史が見えてくるのでしょうか。全何巻になるのかは、まだわかりませんが、楽しみなシリーズになりそうですね。

『1914年 100年前から今を考える』 (海野弘著、平凡社新書、15日発売)
「第一次世界大戦が始まった1914年は国際面だけでなく、様々な文脈において時代の転換点だった。100年前の世界と日本を検証する」とのこと。100年前と今とを結ぶ「様々な文脈」とはいかなるものなのか。うーむ、これは気になるなあ。

『病む女はなぜ村上春樹を読むか』 (小谷野敦著、ベスト新書、8日発売)
「村上春樹作品の本質はポルノ文学である。そして、その事実が巧妙に隠蔽される仕掛けこそが、村上春樹の最大の秘密である」。なんだか、あざとさすら感じさせるような書名に内容紹介でありますが、著者が小谷野敦さんだけあって、毒を含みながらもスルドイ考察や批評眼に基づいた本になっているのではないかと。ひとまずチェックしておきたいと思います。


上記10冊のほかに気になった書目を、以下に列挙しておきます。

『鉄道でゆく凸凹(デコボコ)地形の旅』 (今尾恵介著、朝日新書、13日発売)
『新版 仕事道楽 スタジオジブリの現場』 (鈴木敏夫著、岩波新書、20日発売)
『貨幣という謎 金(きん)と日銀券とビットコイン』 (西部忠著、NHK出版新書、10日発売)
『SFを実現する 3Dプリンタの想像力』 (田中浩也著、講談社現代新書、15日発売)
『地球 46億年の歴史』 (ロバート・ヘイゼン著、渡会圭子訳、講談社ブルーバックス、20日発売)
『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』 (吉本佳生・西田宗千佳著、講談社ブルーバックス、20日発売)
『「超常現象」を本気で科学する』 (石川幹人著、新潮新書、16日発売)
『今こそ読みたい児童文学100』 (赤木かん子著、ちくまプリマー新書、7日発売)
『ルポ 高齢者ケア 都市の戦略、地方の再生』 (佐藤幹夫著、ちくま新書、7日発売)
『巨大津波 地層からの警告』 (後藤和久著、日経プレミアシリーズ、12日発売)
『クラゲハンドブック(仮)』 (村上龍男・下村脩著、PHP新書、15日発売)
『テレビに夢中だった! 月光仮面から欽どこまで 昭和黄金期のTV史(仮)』 (睦月影男著、双葉新書、20日発売)
『「見たいテレビ」が今日もない メディアの王様・崩壊の10年』 (長谷川豊著、双葉新書、20日発売)
『科学はなぜ誤解されるのか 感覚とコミュニケーションの罠』 (垂水雄二著、平凡社新書、15日発売)