ナスビは江戸時代に急速に普及し、戦前まで果菜類のなかで最も生産量が多かった。
庶民はぬか漬けで食用し、武士やお金持ちの家では焼いても食べていたのだろう。
縁起もよく「一富士二鷹三茄子」、夢や絵画に登場する。
・・・
「芭蕉物語(中)」 麻生磯次 新潮社 昭和50年発行
その夜は雨がひどく降って、明け方まで続いたが、
十八日、十九日はともに快晴で、俳人たちが芭蕉のもとに集まって来た。
二十日は斎藤一泉の松玄庵に招待された。
松玄庵は松幻庵、少幻庵などとも書き、犀川のほとりにあった。
このあたりは川幅も広く、中洲もあって、川を渡る風は涼しく、掬すべき風情があった。
この日の献立は、芭蕉の希望したように、たいそうあっさりしたものであった。
芭蕉はこの席で、
残暑しばし手毎にれうれ瓜茄子 芭蕉
という句を作ったが、これは改作されて、
秋涼し手毎にむけや瓜茄子 芭蕉
となった。
秋も初めの頃で、まだ暑さが残っていたが、どことなく涼気がうごいていた。
瓜茄子をめいめいに皮をむいていただこう、とくつろいだ気分を出したのである。
・・・
・・・
旅の場所・石川県金沢市
旅の日・2016年2月2日
書名・奥の細道
原作者・松尾芭蕉
・・・
「超訳芭蕉百句」 嵐山光三郎 筑摩書房 2022年発行
枕すゞし手毎にむけや瓜茄子
犀川のほとり一泉庵での吟。
秋の涼気を覚える新鮮な瓜や茄子を馳走された。さあ、皮を剥いていただこう。
秋とはいえ残暑がつづく日、いただいた茄子を「手ごとにむこう」という即興で、
「手毎にむく」は「手向ける」(没した一笑へのたむけ)の気持がある。
・・・
・・・