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元号廃止と紀元考
「天声人語」 昭和25年2・14 荒垣秀雄
元号を今年いっぱいで廃止しようとの法案が参議院の文部委員会で練られている。
来年から二十世紀の後半期に入るのだから時期としてちょうどよいのだろう。
日本には元号と神武紀元と西暦の三つが雑居していて、世界史の理解に大きな妨げとなっている。
元号は大化の改新で西暦六四五年に初めて採用され、天皇一世に八回も改元があったこともある。
明治いらい皇室典範で一世一元とされて今日に至ったが、
天皇とともに年代を起算することは、豊臣時代、徳川時代などと支配者の名によって歴史を分類することと共にもうやめてもよかろう。
紀元の起こりは、明治五年十一月、その年を紀元二五三三年としたものだそうだが、神武紀元に大きなサバをよんでいることは今さらいうまでもなく、
これも名実ともに速やかに廃止すべきだ。
西暦は六世紀のなかばころから用いられ始めた。
キリスト降誕と伝えられる年とは四年ほどずれている。
紀元には世界中に五十種ほどあるそうだ。
初紀元の由来はとにかくとして、西暦はいま世界的に通用しているのだから、
日本を含めてこれを用いるのが合理的であり便利である。
神武紀元や昭和元号を捨てたからとて今さら”国威”を失墜することにもなるまい。
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蠅・蚊・回虫の楽園
「天声人語」 昭和25年5・19 荒垣秀雄
急に暑くなって蠅がめっきりふえてきた。
この不潔物の小運送屋がブンブンたかっている。
蠅退治の方法も相変わらず一匹一殺主義である。
大の男が蠅叩きをもって追い回し、
慈悲深い淑女は扇をあおいで、食卓の占める空間だけを不法侵入地帯に保とうと務める。
家庭菜園は野菜の副産物として蠅と回虫との養殖場でもある。
蠅と蚊と回虫を四つの島から追放する政策を掲げる政党があるなら、真ッ先に投票したい。
馬鹿なことを言うなと笑うなかれ。
こいつらを駆除するためには、下水を全国的に完備し、一切の肥しを化学肥料にし、
塵芥処理を完全にし、水たまりには殺虫剤を一日も怠らず注ぐだけのことはせねばならぬ。
蠅叩きや蚊帳を製造する中小企業が破産するような世の中になりたい、
といっても”放言”にはなるまい。
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