緑茶4杯で半減! うつ病リスク下げる三つの食品 2016.7.25
最近、うつ病治療で注目される分野がある。「精神栄養学」。食事とうつの関係や、生活習慣病との相関関係にも着目、従来の治療に「食の改善」や「生活習慣病対策」を加え、症状が改善するケースもあるようだ。
うつと食事、栄養素の関係をみる研究は最近になって増えている。その結果、いくつかのことがわかってきた。具体的にみていこう。
国立精神・神経医療研究センター病院の功刀(くぬぎ)浩医師(神経研究所疾病研究第三部部長)が、うつ病リスクを下げる食品としてまず挙げるのは、日本人になじみ深い「緑茶」だ。東北地方の70歳以上を対象にした調査では、緑茶を1日4杯以上飲む群は、1杯以下の群に比べて、うつリスクが半分程度だった。また、功刀医師らのアンケート調査でも、健康な人に比べて、うつ病患者は緑茶摂取量が少なかった。
緑茶がなぜうつのリスクを下げるのか。
功刀医師は「うまみ成分“テアニン”や、渋み成分の“カテキン”の薬効によるものではないか」と推測する。
「テアニンはグルタミン酸からできるアミノ酸で、リラックス効果のある成分です。大脳皮質にある神経細胞の約7割が、グルタミン酸を神経伝達物質の材料にしているので、テアニンをとることで神経細胞の伝達が調整されるのではないかと考えられています」(同)
カテキンには、抗酸化作用で脳の神経細胞を守るほか、うつ病との関連が示唆されている脂質異常や血糖値の上昇を防ぐ作用もあるため、直接的、間接的に抗うつ作用を示すという。
なお、テアニンは玉露や抹茶など高級品に多く、低温で抽出するとよい。一方、カテキンは安価な緑茶に多く含まれていて、高温で入れるのが抽出のポイントだ。
次は栄養素の「葉酸」。
「葉酸は、脳内の神経物質、ノルアドレナリンやセロトニンなどの合成に必要な栄養素の一つ。抗うつ薬+葉酸の摂取群と、抗うつ薬+偽薬の摂取群とを比較した海外の研究では、葉酸摂取群のほうで治療効果が高いと報告されています」(同)
葉酸の抑うつ予防効果については、国立国際医療研究センター疫学・予防研究科の南里明子さんらも研究している。21~67歳の男女約530人の血液中の葉酸の濃度と、抑うつとの関連を調べると、男性の葉酸濃度が高い群は、低い群に比べて、抑うつ症状のある人が少ないことがわかった。さらに、3年後に同じ対象者を調べたところ、ベースライン時の葉酸の血中濃度が高い群で、うつ症状が起こりにくかった。
「我々の研究は健康な人を対象に、うつとの関連をみています。うつ病患者さんにどれくらい効果があるのかまではわかりませんが、再発予防につながる可能性はあると期待しています」(南里さん)
葉酸は緑の野菜やレバーなどに多く含まれている。
三つ目は、ヨーグルトなどに含まれる善玉菌。
前出・功刀医師らが、うつ病患者と健康な人の便の菌の量や種類を測定したところ、うつ病患者は健康な人に比べて善玉菌が少なかった。
「腸には口から入った有害物質を体内に吸収させないバリア機能があります。ところが、善玉菌が少なくなると、バリア機能が弱まり、有害物質が入り込みやすくなる。その結果、小さな炎症があちこちで起こるようになり、その影響が脳に及んで、神経細胞を傷めてしまう。それがうつの発症にも関係すると言われています。善玉菌を増やすことでバリア機能を高め、結果的にうつのリスクを減らすのだと思われます」(功刀医師)
今回取り上げたのは三つの食品と栄養素だが、前出・南里さんによると、ビタミンB6やビタミンD、カルシウム、鉄、亜鉛、マグネシウムなどのミネラルも、抑うつ症状の低下に関連しているという研究結果が出ているそうだ。
大事なのは、これらをサプリメントなどで摂取するよりも、日々の食事で体内にとり入れることだという。
野菜、果物、大豆製品などをバランス良くとっている群では、抑うつ症状のある人が少ないという調査結果も出ています。また、ビタミンDは食事での摂取のほか、日光を浴びることで作られるので、ときには日焼け止めや日傘をやめて、短時間でも日光を浴びてほしいですね」(南里さん)
功刀医師にうつに効く“理想的な食事”を監修してもらった。その内容は、「緑茶」「納豆」(納豆以外にも、肉、魚、卵などタンパク質のおかずでOK)、果物やシリアル、ハチミツなどを入れた「ヨーグルト」、野菜・きのこ・海藻たっぷりの具だくさん「味噌汁」、ビタミン・ミネラル豊富な「玄米ご飯」(量は少なめ)。こうした食事を朝食で十分にとることは、一日の活動のスイッチを入れ、うつ病治療でも大切な生活のリズムを整えることにもつながる。
もう一つ、うつと食で忘れてならないのは、「とらないほうがいい」ものだろう。それは「エネルギー」。食べすぎなどによるエネルギー過多は、生活習慣病の原因になるだけでなく、うつ病の発症にも関係するということがわかってきたのだ。
実際、海外の多数の研究結果から、肥満や糖尿病はうつ病のリスクを1.5倍上げ、うつ病も肥満や糖尿病のリスクを1.5倍にするという相関関係がわかっている。
「うつ病治療の原則が『休息』とされるので、どうしても活動量が減ってしまう。うつ病になると食欲が落ちるという印象がありますが、薬の影響などで食欲は比較的早く戻る一方、活動意欲の回復には時間がかかるので、エネルギーの過剰摂取が起こりやすい。生活習慣病を発症して、病状を長引かせてしまう場合もあります」(功刀医師)
※週刊朝日 2016年7月29日号より抜粋