里の家ファーム

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子どもの声に耳を

2016年08月20日 | 悩み

ほっておかれた「ぼうし」

東京都公立小学校教員 東畑 優

「ぼうし」という詩をユウコが宿題で作ってきた。

人の頭にのっている、それがぼくの人生

だけどいつもじゃないんだよ

あっ、わすれられたよ~っ

さいきんは、もっとひどいよ

「なげられた」と思ったら、こんどは、ほっておかれたよ

でもね、ぼくのことを大切にあつかう人もいるんだからね、

だからね、ぼくは思ったんだ

「おもいどおりにいかないのが人生なんだ」って

   放課後、帽子を投げ合い、じゃれて遊んでいた一幕を詩にしたという。この詩にはユウコのものの見方、考え方がよく表現されている。
 コミニケーションに困難を抱え、障碍児学級に通う年近い兄がいる。手のかかる兄に母親はつきっきりになりがち。一方で「ユウコはしっかりしていますから」と周囲に話してきた。「しっかり者」でいなければならず、次第に不満を募らせる。
 同じ境遇はユウコの学校生活にも存在した。落ち着かない友達がクラスにいて、かつて学級崩壊も経験してきた。担任の私は困難を抱える子たちが落ち着ける教室環境をつくろうと、他の子たちに時には譲ったり、彼らを刺激しないように行動することを強いた。この指導によってユウコとの間に深い溝ができてしまった。
 ユウコは家庭と学校における自分自身の経験から「おとなは大変な子ばかりよく見てあげて、自分のことはよく見てくれない」という思いを育て上げてしまった。冒頭の詩はあくまで帽子について書かれているのだが「わすれられた」「ほっておかれた」「思いどおりにいかない」はユウコそのものではないか。
 そして自分を「大切にあつかう人」の存在を希求している。自分だってもっと甘えたい、もっとよく見ていてほしい。普段、直接伝えられない心の声が、詩の中にある。

   「しんぶん赤旗」8月9日 くらし・家庭