台風9号により、被害を受けられた皆様に心よりお見舞い申し上げます。特に収穫を前にしての農地の冠水には同業者としても心を引き裂かれる思いです。近隣でも深川の納内では石狩川が氾濫し、砂川の焼山でも土砂崩れが発生しています。
台風が7号9号と続けざまに北海道を襲い、しかもほぼ同じルートをとりました。北海道に台風が上陸すること事態が珍しいことなのですが、それが続いてしまいました。
わたしも昨年、強風被害を受けているだけに、やるせない気持ちです。
大人のひきこもり
サバイバル術 無理心中事件が頻発 80代「親」の年金で暮らす50代無職の「子」…支援策は?
2016年5月24日 サンデー毎日
- 「大人のひきこもり」といわれる人たちが、全国で急増している。これまで「いない」とされてきた「ひきこもる女性」の存在も、地域で顕在化するようになった。最近では、そんな親子が高齢化するに伴って、家庭内で煮詰まった末の悲劇も続いている。
(ジャーナリスト・池上正樹)
“パンドラの箱”を開けると、年老いた親の家に働き盛りの中年世代の子どもが親の年金などの収入を頼りに同居する世帯があちこちに姿を現す―。
5月8日には、長年ひきこもる50歳の長男を、73歳の母親が刺殺して自らも命を絶つという事件が、新潟県三条市で起きた。被害者の長男は、母親と弟の3人暮らし。『毎日新聞』の報道によると、年老いた母親は、長男が中学卒業後から定職に就かず、自宅にひきこもりがちになり、弟の収入に頼り切って生計を立てていることに悩んでいたという。
近所の女性(76)によると、遺書の書き置きには「弟には迷惑をかけているし、長男とお父さん(数年前に亡くなった夫)の元に行きます」などと書かれていた。女性は「面倒見が良くて、全部を背負い込むような人だった。家に来るたびに子どもの話ばかりしていて、子煩悩な人だったのに、ここまでこらえていたものが、一気にあふれ出たのだろうか」と話していたという。
三条市では、「ひきこもり施策」として、「子ども・若者総合サポートシステム」という制度が整備されていた。しかし、窓口に電話をかけると、まず年齢を聞かれ「35歳以上は対応できないので……」と、別の部署にかけ直すよう指示された。「子ども・若者育成支援推進法」に基づく施策だからだという。
そうだとすると、今回の50歳の「ひきこもり親子」へのセーフティーネットは十分に機能していたのか。「ひきこもり施策」の年齢制限の根拠は何なのか。
筆者が「取材したい」と名乗ると、窓口の責任者から電話があり、「35歳は目安として線引きしているだけで、40代、50代でも話を聞いて対応しています」と慌てて釈明された。
しかし、やっと勇気を出して本人や親が電話した相談窓口で、年齢制限される対応をされたら、どう感じるのか。そもそも、「ひきこもり支援」をうたいながら「子ども・若者」に限定するような告知をされれば、高齢化した当事者たちは声を上げる気力もわかなくなる。今後も「子ども・若者育成支援推進法」をひきこもり施策の現場で法的根拠とするならば、現実に即さない同法の不備を変えるしかない。
こうした制度の谷間に置かれ、放置された高齢化親子の行く末を暗示するような悲劇が頻発している。5月17日には、岐阜県大野町の80歳代の女性宅で、2人暮らしだった47歳の長女と母娘の遺体が寝室や居間で見つかった。警察では、餓死や病死の可能性もあるとみて詳しい死因を調べているが、生活保護の相談はなかったという。どうしてセーフティーネットにつながることができなかったのか。
「親が成長すれば悲劇は防げる」
親が借金を背負ったことによって、同居する子どもをも巻き込んで、家族で身動きが取れなくなっているケースも少なくない。
親の世代が、これまでのように退職金や年金といった安定した収入を得られる見込みが小さくなり、家庭を支えきれなくなってきている時代的背景もある。
長年、同居していた中高年の子どもが親元から自立しようとして不動産屋で部屋を探しても、「無職」を理由になかなかアパートを借りられない。真面目な親子ほど、生活保護などの福祉に頼ることに対し「社会には迷惑をかけられないから」といった後ろめたさや抵抗感もある。
親に万一のことがあれば、「親子共倒れ」になる。もはや一刻の猶予もない。
筆者が地方の講演会などのイベントに呼ばれて行くと、どこへ行っても「自分が亡くなったら、残された子どもはどうなるのか?」「いまのままでは死んでも死にきれない」などと、親にすがりつかれる。そうした親たちは、15年、20年と“答え”を探してきたけれど見つからず、親亡き後の子の将来を心配しているのだ。
追いつめられた親子は、これからどうサバイバルしていけばよいのか。
厚労省は、第1次的な相談窓口として「ひきこもり地域支援センター」を都道府県や指定都市に開設して、地域の家族会や社会資源とのネットワーク化に取り組み始めている。また、「ひきこもり」対応も含めた「生活困窮者自立支援法」の相談窓口も昨年度から市以上の自治体に整備された。
1999年に設立され、全国に59支部をもつNPO「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」は長年、蓄積してきた当事者会ならではの豊富なノウハウを生かし、厚労省の事業として『地域におけるひきこもり支援ガイドブック』を3月に作成。全国の会員家族や関係者らに配布した。
ガイドブックが「対象者」に挙げるのは以下の通り。
「80歳の要介護者の自宅に無職の50歳の子供が親の年金で生活している」
「生活保護世帯の家庭に長時間働かずに自宅中心の生活をしている子供がいる」
「30代後半の利用者で数年間仕事をせず、自宅中心の生活をしていたが、親の介護や死亡を機に生活保護を申請しようとしている」
「ひきこもり状態にあっても、現時点では家族の支えによって生活に困窮していないものの、家族の支えがなくなった場合に、生活困窮になる可能性がある」
ガイドブックはそのうえで具体的なアドバイスを紹介しているが、「ひきこもり」の背景にあるものや状況は、実際には一人一人で違っていて、教科書やマニュアルは“答え”にならない。
「子どものことばかり言わず、まず親が成長して自分の枠を超えていくことが大事。親が外につながりを求め、家族会で話し合ったり勉強したりすれば、子どもも動き出して悲劇は防げる」と池田佳世代表は話す。
同会は最近、家族会に居場所を開設、他の当事者たちとの出会いの場づくりにも力を入れる。
「お父さんお母さんはぜひ、元気になったひきこもり当事者と出会ってください。子どもを傷つけない回復の道は、たくさんあることがわかるでしょう」(池田代表)
子どもが安心して社会に出ていくためには、親の存在が重要だ。そんな親を支えるための支援の必要性が、最近の流れともいえる。
ひきこもり相談の問い合わせ先◇
◆KHJ全国ひきこもり家族会連合会
電話…03―5944―5250
FAX…03―5944―5290
◆ひきこもり地域支援センター
各都道府県及び指定都市に設置
◆生活困窮者自立支援相談
(生活全般にわたるお困りごとの相談窓口)
福祉事務所のある自治体
いけがみ・まさき
1962年生まれ。通信社勤務を経てフリーのジャーナリストに。主な著書に『ひきこもる女性たち』(ベスト新書)、『大人のひきこもり』(講談社現代新書)、共著に『下流中年』(SB新書)など
(サンデー毎日2016年6月5日号から)