日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

武力行使の新3要件を想う

2015年05月28日 09時51分10秒 | 日々雑感
 武力攻撃事態法改正案、周辺事態法改正案、国連平和維持活動協力法改正案など10本を束ねた「平和安全法整備法」を5月14日、閣議決定した。憲法解釈を変更して集団的自衛権を認めようとするものであり、安保政策における日本の大きな転換点を迎えようとしている。
 この法案で明記された武力行使できる新3要件は、①日本が直接攻撃を受けた場合でなくても、日本と密接な関係にある他国が武力攻撃され、日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある、②他に適当な手段が無い、③必要最小限の実力行使にとどまる、とされている。
 自衛隊の幹部は「東シナ海は日米の一体運用によって中国の進出を防いでいる。南シナ海でも日米協力の姿を見せるべき」とし、この法案の効用を語る。しかし、米国は世界の警察官として手が回らなくなり、日本に少しでも肩代わりさせようとの魂胆がありありである。安倍政権は米国の後ろ盾と軍備力を頼りに、積極的平和主義と称して、先進国に仲間入りしようと張り切っている。
 さて、この法案の気になる一番の問題は、法案が極めてアナログ的な表現で、いかようにも解釈できることである。例えば“存立が脅かされる状態”とは、いかなる状態か人によって判断が異なるからである。核を搭載したミサイルが日本を目指して飛んでくる状態ともなれば、誰もが納得する存立が脅かされる危機的状態である。しかし、石油を運搬する航路、すなわちシーレーンがホルムズ海峡で機雷により封鎖されたとなると、日本国民にとって死活問題となるとの安倍首相の判断に納得できるであろうか。経済的な大損害となることは間違いないが、死活問題までになるとは考えられない。死活問題とは極めて主観的感情論である。
 例えば5年前に沖縄県の尖閣諸島沖で起きた漁船衝突事件をきっかけに、中国はレアメタルの日本への供給を実質的に一時制限した。このため、日本ではある種のレアメタルの価格が急上昇し、磁石産業は経済的な損害を蒙り、当事者にとって死活問題であったであろう。
石油の供給断もレアメタルの供給断もその額こそ違え経済的な損失であり、両者に本質的な違いはない。従ってレアメタルの不足も日本存立への脅威となり得る。
 26日の国会でも、単なる経済的な理由だけでは新3要件は満たされず、インフラの維持が出来なくなった等、国民の権利が覆される明白な危険がある場合に成立するとの趣旨を答弁している。ここにおいても、どの程度の規模のインフラか、国民とはたった一人でも国民ではないか、等疑問はいくらでもある。
 日本のみならず世界の経済が中国抜きでは考えられなくなった現在、この種の問題も今後しばしば生ずるに違いない。人により、あるいはその時の気分により、“存立が脅かされる状態”が、いくらでも変化する可能性はある。まさに、時の政府により恣意的に解釈される恐れは十分だ。
 安倍首相は、これらの法案により戦争が遠くなると胸を張るが、誰が首相になってもそうなると本当に思っているのであろうか。また、安倍首相は、“絶対“とか”明白”との言葉を安易に使用する。これらの言葉は人によって捕らえ方が異なることにもっと注意して頂きたいものだ。(犬賀 大好-132)