日本銀行の黒田総裁は3月10日の記者会見で、任期中の成果としてデフレを解消して経済を活性化させ、400万人以上の雇用創出で就職氷河期と言われた状態を完全に解消したこと等を挙げた。経済の活性化の具体的成果として企業の内部留保が500兆円を越したことも挙げたいのだろうが、その金は投資資金に回ることなく、また社員の給与も増加しておらず、単にお金を移動しただけで有効に使用していない。また雇用創出は対象が女性や高齢者を対象とする非正規労働者が大半だった。
これらの成果は異次元の金融緩和による経済格差拡大等の副作用を伴っていたが、それよりも経済に対するプラスの効果がはるかに大きかったとした上で、一貫して2%の物価安定目標の実現を目指して大規模緩和を続けてきたことは間違っていなかったと自慢げに話した。当初2%の目標は2年で達成できると胸を張っていたが、その言はすっかり忘れてしまい、黒田氏にはストレスが溜まることが無い能天気さが窺える。
また、日銀は2013年に始めた大規模緩和で、日銀は国債や上場投資信託(ETF)を買い入れ、大量に保有している。黒田氏にとって、膨大な保有額も負の遺産だとの認識は全く無く何の反省も無いとのことだ。これらの保有する国債や株式が簡単に元に戻せるものであれば負の遺産とならないが、保有すること自体にリスクがあり、能天気さに呆れ果てる。
黒田氏の認識通り負の遺産でなければ無限に増やすことも出来、日本の各種税金もゼロとしても日本の国家財政は安泰であろう。さて、当初の目的のデフレ解消は、10年かかってようやく達成出来たそうだ。これには大規模金融緩和による負の遺産の上に築かれており、ロシアのウクライナ侵攻による切っ掛けでその効果が出始めた。従って、ウクライナ問題が解消しても、一旦走り始めたインフレは負の遺産によりハイパーインフレへ暴走する恐れがある。
さて、記録的な物価上昇が進む中、今年の春闘の集中回答日の3月15日、大手企業では満額を含む近年にない高い水準の回答が相次いだ。黒田氏の先述の記者会見で労働需給面で賃金が上がりやすい状況になりつつあるとし、賃金と物価が上がらないという社会規範にも変化が生じていると説明していたが、その通りになるであろうか。しかし、賃金の上昇があってその後に物価上昇があれば生活は楽になるが、現状は物価上昇があって賃金上昇がある状態で、これでは生活は楽にならず、年金生活者は言わずもがなだ。
黒田氏に代わり新たに就任する植田新総裁は負の遺産の処理で苦労するだろう。しかし、就任演説で黒田氏の緩和路線を継続すると主張した。しかし、これまでの言動から異次元金融緩和のマイナス効果を認識しているそうで、近い将来金利の上昇方向に動くのではないかと推測する。日銀総裁の言動は株価等にすぐに影響するため本音を語ることはまずないだろう。
2023.03.33(犬賀 大好ー899)
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