国際原子力機関(IAEA)は、原子力発電は世界全体でみると、①発展途上地域における人口や電力需要の増加②気候変動や大気汚染への対策の必要性③エネルギー安全保障④他のエネルギー資源価格の変動などの潜在的な要因から、引き続き世界の電源構成において重要な役割を果たすとしている。安全性と安全対策コストに問題なければその通りであろう。
2018年初頭、原子力発電所の数は、米国99基、仏58基、中国は37基だそうで、2017年に全世界で運転を開始した原子炉は4基あり、そのうち3基は中国にあり、残りの1基は中国がパキスタンに建設したものだそうだ。中国には原子炉を年間10〜12基建設する能力があり、今後も数年前に建設を開始した原子炉数基が運転を開始する予定だそうで、中国の躍進が顕著だ。
しかし、中国は当初2018年中の着工予定は6~8基であったが、2016年後半以降、新たな原子炉は着工されていないとのことだ。中国は表向きは原発推進の立場を維持しているものの、原発大手さえも再生可能エネルギーへのシフトを始めているそうだ。
欧米諸国は、原子力はコストが高過ぎる、国民は安全性の面から原発を望まない、という問題に直面しており、こうした問題に中国の原子力政策も従わざるを得ないという見解が中国政府関係者にもあるそうだ。
しかしながら、自国の原子炉の能力を世界最高レベルにまで引き上げてきた中国にとって、原発は重要な輸出商品になっているそうだ。中国はパキスタンに原発を建設している他、2016年にケニアとエジプトとの間で輸出に関する覚書に署名し、また、ルーマニアやアルゼンチンからも注文を取り付けるなど、中東やアフリカ地域の市場を集中的に開拓しているようである。
開発途上国にとって電力は必要不可欠であり、原発は当面の要求を叶えてくれる有り難い設備となる。中国にとってもこれまでの開発費用を回収するため、これらの国への輸出に熱心になるだろう。
自然災害や人災を想定しなければ原発は安全であるが、開発途上国の資金不足を補うため安全対策に手を抜くかも知れない。恐ろしいのは、導入直後には緊張してマニュアルを守るであろうが、多少慣れてくると手を抜くために起こる人災である。相当規模の自然災害が起こらなくても、慣れは必ずやって来る人間の特質だ。どこかで事故が起こるまでは途上国での新設ラッシュは続くであろう。
ところで、日本に原発の新たな建設計画はないが、原発事故前に着工され、完成が間近かに迫っていた原発3基がある。その内1基は凍結、残り2基を何とか完成させようともがいている。
その一つが島根原発3号機だ。中国電力は立地自治体の松江市や島根県から事前了解を得て、昨年8月に原子力規制委員会に安全審査を申請した。一方、国は福島第一原発の事故を踏まえ、原発30キロ圏内の自治体に避難計画の策定を義務づけた。このため島根原発の周辺6県市は、協定を立地県市と同じにするように再三求めているが、中国電力は応じていない。
周辺自治体に対する事前了解は再稼働を控えるどの原発でも同じであるが、電力会社はコスト高や時間の長期化の面で逡巡するだろう。しかし、福島の原発事故の教訓は絶対生かさなければならない。
もう一つの下北半島の大間原発は、プルトニウムとウランを混合したMOX燃料を100%使う原発として、プルトニウム削減の切り札として国は稼働に期待している。島根原発3号機はこれまでの投資した分を取り返すのが第1目的であろうが、大間原発はそれに加えてプルトニウム削減がある。
原発は事故さえ起きなければ電力会社には安定した収入源であり、消費者には電力が安定供給されるエネルギー源だ。一方福島の原発事故は大きな後遺症を残し、今だ癒えていない。世界の原発の流れは衰退の方向に向かっている。さて、原子力規制委員会はどのように判断するであろうか。2019.05.15(犬賀 大好-546)
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