日本図書館協会の図書館雑誌2017年8月号の特集「図書館の話題アラカルト」で、旧知の柳瀬寛夫氏と上林陽治氏が論考を掲載されている。
柳瀬寛夫氏は、特集冒頭に、「図書館を支える建築の使命」。
柳瀬氏は、岡田新一設計事務所の社長で、日本の図書館設計の第一人者。早稲田大学や立教大学で図書館建築の講師も務められる。
「かつては設計プロポーザルのたびに、図書館に通って、立地する都市の歴史、風土、産業、人口分布などを丹念に調べながら、設計のヒントを紡ぎだそうと躍起になったものだが、最近はネット検索による仕事のしかたに傾いている。」(492ページ)
たいへん研究熱心で、なによりも図書館という存在を深く愛しておられる教養人であると、私は考えている。
この柳瀬氏、実は、現在建設中の気仙沼図書館の設計者である。
「「気仙沼図書館・児童センター」は、東日本大震災で被災した旧図書館跡地に、2018年春開館をめざして工事中である。」(494ページ)
気仙沼市の図書館長として、検討委員会の事務担当者として、こういう設計者とともに計画づくりを担えたことは、ほんとうに有難いことであり、望外の喜びであり、光栄なことであった。岡田新一事務所は、柳瀬社長を中心に見事な設計案を提案し、プロポーザルを突破したわけである。
「着工前(2016年5月)、協働するランドスケープデザイナーと生態学者の協力のもと、気仙沼小学校3年生の授業の中で「敷地内の水仙を移植、表土保全のワークショップ」を実施した。」
「また、立教大学文学部河野哲也先生の知遇を得て…「てつがく探検隊」の呼び名で…学年を超えて子どもたちが集まり、地域の自然と文化、歴史、産業を「フィールドワーク」で体験し、自分たちの住んでいる場所の価値と問題を見つめ直し、これからどのような地域社会をつくっていけばよいかを「哲学カフェ」で話し合う。」
設計自体と併せ、完成後の図書館の使い方に通じていくワークショップ、哲学カフェと試みられている。
「一般的に、図書館と児童センターは上下足など管理方針の違いから、複合しても併設に留まる例が多いが、気仙沼では諸室は一体化しており事務室も一室である。設計から開館までのプロセスを通して築きあげたチームワークで、市民と一緒に新しいコトを始めるだろう。そこかしこに喜ばしい情景を観察できるだろうと期待している。」
私は、この3月で図書館、市役所を離れた身であるが、柳瀬氏の研究力、発想力、設計家としての実力、さらに図書館人としての矜持(これらを総じて氏の教養と呼びたい)をもって、よき図書館建築を実現しつつあるものと観じているところである。そのうえで、よき図書館を実現して行くのは、われわれ地元の市民であり、また、司書を中心とする職員であることは言うまでもない。
さて、その次が、上林陽治氏の「図書館非正規職員への地公法・自治法改正の影響」。
上林氏は公益財団法人地方自治総合研究所研究員。
福祉事務所でのケースワーカーとしての経験を踏まえ、自治体学会の公募論文として「生活保護と地方分権」を書き、学会の年報に掲載されたあと、自治総研でまさに生活保護分野の地方分権について検討し、一冊の本をまとめる企画があり、法政大学の武藤博巳先生を中心に5名ほどのチームで合宿しつつ議論を深め原稿執筆するという機会があった。この書物は、いろいろな経緯があって、執筆者名が明示されない形でひっそりと発行された。その経緯はさておき、自治総研としての担当者が、上林氏で、私としては、とてもうまが合い、話が合う人物であり、人生の中でお会いした回数は片手で足りるほどではあるが、旧知の友、と私は思っている。
上林氏は、自治体の中でも特に図書館が「非正規化が進展した職種である」としたうえで、2017年5月の地方公務員法と地方自治法の改正によって
「地方公共団体に働く職員の3人に1人まで膨張した非正規職員の処遇が改善すると考えるのは早計である。」(495ページ)
と述べ、問題点を列挙する。
「つまり、日本の公立図書館に働く職員の3人中2人はワーキングプア水準の非正規公務員であり、図書館は貧困を構造化して運営されているのである。」(496ページ)
「非正規公務員にとって、最大の課題は雇止め問題である。これに対し改正地公法は何も答えていない。」(497ページ)
末尾のところで、氏は以下のように述べる。
「だが雇止め規制は立法的措置ではなく、地方公共団体への技術的助言として通知されるに過ぎない。」(497ページ)
地方自治体(地方公共団体)は、中央官庁の指導にやみくもに従うのではなく、図書館の分野においても、責任をもって自治しなければならない、というわけである。ここは、地方自治論になじみのない皆さんには、少々解説を加えなければならないところだが、その点は、別の機会にゆずることにしたい。
ということで、この文章は、図書館雑誌という場所で、私が人生の中での全く違う分野において関わる機会を得たおふたりが、貴重な論考を並べて掲載されているということで、うれしくなって書いてしまった、というわけである。
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