Library Resource Guide 第20号、第21号 アカデミック・リソースガイド株式会社
岡本真さんのライブラリー・リソース・ガイド、LRG、21号特集「メディアとしての図書館」から読んで20号総特集「図書館のデザイン、公共のデザイン」と遡った。といううちに、実は22号も届いてしまったが、それはもう少し先にとって置くこととする。
21号の特集「メディアとしての図書館」はアカデミック・リソース・ガイド社から、作家として今回独立することとした野原海明氏の手になる。
「これまでの図書館の役割には、「編集」といった視点は含まれていない。「編集」とは、集めた資料や情報を「使って」行うものだ。図書館が、収集、整理、保存してきた財産を使って生み出された「媒体」は、図書館そのものを体現したものなのではないか。本特集ではそれが生み出される過程や地域との関わり方に注目し、メディアとしての図書館のあり方を探っていきたい。メディアとしての図書館を考えることで、新たな図書館の役割が見えてくるはずだ。」(10ページ)
そして、東近江市立図書館の「そこら」、伊丹市立図書館の「伊丹公論」、千葉県大多喜図書館の「あてら」、奈良県立図書館の「ナラヲヨム」と、図書館が編集、作成した意欲的なフリーペーパーが紹介される。
「新たに生み出されたメディアはそれ自体も力をもつ。限られた地域にだけ情報を発信するのではなく、じわじわともっと広い地域に広がっていく。従来の図書館利用者だけでなく、幅広い人の元にも届く。図書館として、多くの人に届けたいものは何か。そしてそれを広める手段のひとつとして、ここで紹介したフリーペーパーなどのあり方が多くの図書館の参考になることを願う。」(38ページ)
ちょっとわき道にそれるが、編集ということばは、ぼくにとって、とても重要なことばのひとつである。ぼくのやってきた仕事は、ほぼ、編集ということばで言いあらわされるものだ。これは、松岡正剛の影響を受けて、ということになる。たとえば、新しい気仙沼図書館づくりの計画策定の仕事も一種の編集作業であった。
特別寄稿として、発行人の岡本真氏の「未来の図書館、はじめませんか? 基礎実践編β【前篇】」。
これは青弓社から2014年に発行された「未来の図書館、はじめませんか?」の続編として構想されたものである。
「それからすでに4年の月日が経ち、すでにご覧いただいたように、大なり小なり関わった複数の図書館がオープンしていますし、この先も続々オープンします。/この間、私たちARGは先行するさまざまな取り組みをまなび、また他分野の取り組みから刺激を受け、ここまで歩んできました。…この8年余りの中でARGがまなんだことを開陳します。」(46ページ)
伊藤大貴(ひろたか)氏は、日経エレクトロニクスの記者などを経て、横浜市会議員から、2017年、横浜市長選に挑戦するも敗れたという経歴の方のようだが、「政策提案型議員から見た図書館」ということで、
「まず、申し上げたいことは図書館の本来の機能、あるべき姿と、図書館に対する市民の意識が相当かい離しているというのが、議員を経験した私の率直な感想です。」(93ページ)
と、なかなか刺激的な論考である。
「蔦屋家電は未来の図書館かもしれない」などという小見出しも見える。
ただし、蔦屋家電であって、ストレートに蔦屋図書館ではないことに留意。
司書名鑑は、岩手県紫波町、紫波町立図書館の主任司書、手塚美希さん。かの紫波の図書館の手塚さんである。
「紫波では、目の前にいる人だけではなくて、ただ通りすぎる人にも、自分ができることは何かを自分で考えて対応するということを目標にしています。自分のやりたいことや興味というのは二の次において、目の前に与えられた環境の中で、自分ができることがなんなのかを最大限に考えて、それを全力でやるということを、常に意識しています。」(113ページ)
目の前に与えられた環境のなかで自分ができることを最大限にやる。なんというか、自分の環境というのは、そんなに自由に選びとれるものではない。なにかどこか不自由にそういう環境の中におかれてしまっている。ほとんどの人間にとって、環境は、選びとるものではなく、与えられたものである。そういうなかで、精一杯できることをする。
「いままで出会った生粋の優秀な司書の方々に協力してもらったからこそ、いまの紫波町図書館ができたとも言えます。図書館づくりだけでなく現在の運営も、自分にできないことが多すぎるがゆえに、つながってくださる頼りになる方々との信頼関係の間で、私はこれをしたい、逆に私はあなたにこれならできますということを伝えていく、そういうことの連続です。」(113ページ)
さまざまな人の力がつながることの大切さ、図書館界はとくに、ひととひとがつながることで大きな力が生み出される世界のように思われる。なにごとも、自分ひとりの力でできるものではない。
そういうふうにして、手塚さんは、紫波町において、めざましい仕事を成し遂げたわけである。
田中輝美さんの「島ではじめる未来の図書館」は、19号から始まって3回目である。島根県隠岐の島の西ノ島町の図書館づくりのことをリポートする。今号は「前例なきコミュニティ図書館のデザイン」。この島の図書館づくりは、なかなかに刺激的なプロセスである。
ところで、この図書館は、西ノ島コミュニティ図書館と名づけられたようだが、「コミュニティ図書館という名称を掲げているのは全国でもここだけだ」とあるのには、若干、異議を唱えておきたい。気仙沼図書館唐桑分館は、震災以降に世界からのさまざまな支援を得て建設されたものだが、愛称を「唐桑コミュニティ図書館」と称し、建物にもその名称のサインがとりつけられている。条例上の正式名称ではないとしても、である。相応に、地域のコミュニケ―ションの場として役割を果たそうと職員も努めている。
20号は、総特集「図書館のデザイン、公共のデザイン」。ARGの李明喜氏が、執筆と収録する2本の対談の司会進行役を務める。対談の一本目は、共にデザインに関する大学の教員であり、紫波町の図書館を含む「オガールプラザ」の「デザイン会議」のメンバーであった佐藤直樹、福岡県福智町の図書館・歴史資料館〈ふくちのち〉でデザインを担った原田祐馬の対談、2本目は建築家、長野県塩尻市「えんぱーく」を設計した柳澤潤、小布施町の「まちとしょテラソ」を設計した古谷誠章。
ここでいう「デザイン」ということばは、21号の「編集」と、実はほぼ同じ意味合いのことばなのだと思う。
司書名鑑は、長野県飯田市の小学校の学校司書、宮澤優子さん。
猪谷千香さんの「図書館エスノグラフィー」は、「九州南端の町・指宿市に市民の夢を乗せて走る移動図書館車「ブックカフェ」」ということで、あの下吹越かおる館長の指宿図書館をとりあげる。
というようなことで、21号、20号と、いつものように考えさせられる企画とためになる情報で楽しませていただいた。
ところで、3月31日の気仙沼図書館のオープンの日には、岡本真氏と鎌倉幸子さんがお見えだったようだが、すれ違いだった。計画づくりを担当した前館長とはいっても、現在は退職後の一市民である。開館式典が終わってからの一般開館に顔を出した。おふたりはまもなくお帰りだったようで、残念であった。
次の22号、すでに手元に届いているが、特集は「図書館とコミュニティ」ということで、楽しみにとっておきたい。
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