相撲に大鵬・柏戸というセットがあって、言うまでもなく、昭和の大横綱、同時期のライバルである。
これを、Jポップというか、当時の言い方で言うとニュー・ミュージックとなるが、松任谷由美と中島みゆきのセットというのがまた同様のライバル関係となる。中島みゆきの後方には、八代亜紀とか、さかのぼれば美空ひばりが控えているということになる。
ただし、日本の大衆音楽という世界で言うと、その山脈は、美空ひばりの後継としては松任谷由美=ユーミンに連なるということになるのだが。
つまり、当時、富士山のような美空ひばりに対して、江利チエミや雪村いずみが対抗であるように、その後は、富士山がユーミンで、その対抗が中島みゆきとなるというふうに逆転しているわけだ。(独立蜂富士山で山脈云々は矛盾したもの言いだが、どちらにしろ比喩表現である。ご容赦願いたい。)
脱線ついでに言えば、というより何が本筋なのかいまだ良くわからないような流れになっているが、たとえば、ユーミンと中島みゆきの間、相当ユーミン寄りに、竹内まりやがいるということになる。
そうそう、夕べのテレビで、工藤静香の特集みたいなことやっていたが、レコード会社のプロデューサーか誰かから、ユーミンと竹内まりやと中島みゆきの3人のなかで誰がいちばん好きかと聞かれて、迷うことなく「中島みゆき」と答えたという。なるほど。
その後の工藤静香のヒット曲は、詞が中島みゆき、曲が後藤次利というコンビで制作されていたようだ。なるほどね。
ちなみに、後藤次利というひとは、ユーミンを生み出した細野晴臣や大瀧詠一の「はっぴいえんど」に連なる人脈の音楽家のはずだ。
松田聖子は、ユーミンの曲で飛躍し、工藤静香は中島みゆきで登場した。
で、中島みゆきの背後に美空ひばりや八代亜紀がいるというところまで戻ると、一方、ユーミンの後には何が控えているかと言えば、ロックであり洋楽である。そうだな、キャロル・キングとかいっても良いかもしれない。(もちろん、江利チエミや雪村いずみの後方には、ジャズとかシャンソンとかの洋楽があった。)
Jポップは、洋楽と歌謡曲の二大潮流の融合として存在する、いや、融合なのか、その二つに引き裂かれているというべきなのか定かではないのだが。
と、ここまでは、ながながとした導入である。
畠山美由紀は、気仙沼出身のシンガー、ジャンル的には、ジャズ・シンガー、なんだろうな。言ってみれば、ユーミンよりももっと洋楽寄りにいる玄人好みというか通向けというか、そんなポジションで地位を築いてきた。
カヴァー・アルバム(2曲ほどオリジナルもあるが)の冒頭は、小椋佳「シクラメンのかほり」。まあまあ順当な、というか穏当な始まりかたである。2曲目「それぞれのテーブル」は、ちあきなおみがアルバムに収録した歌らしい。しかし、もともとシャンソンなのか、これも、スムーズに行ける。
3曲目はテレサ・テン「時の流れに身をまかせ」、なるほど、歌謡曲めいてくるが、昔のニュー・ミュージックの系譜を引くとも言える。
4曲目はオリジナルで「花の夜舟」。
「花の夜舟に たゆたい揺られて
つかの間の日々の 歌を彷徨う
今もあなたを 夢に見るとき
心に満ちてくる あの夜の歌」
と、さあ、これから、懐かしい昔の歌をうたうぞ、と宣言する歌。
で、5曲目が「おんな港町」、八代亜紀である。軽快なテンポで歌われる演歌。ああ、これである。
「おんな港町
どうしてこんなに 夜明けが早いのさ」
ついぞ、畠山美由紀がここに来た。そんな歌だ、と思う。
港町である。海猫である。せつない恋である。別れの涙である。演歌である。
実は、シャ乱Q(あのつんくの)は、一曲目(ずるい女、だったか)だけは好きなのだが、あのキッチュな胡散臭さ、安っぽさ、色っぽさ、ああいうのと共通するような艶っぽさ、というか。
この曲は、NHK衛星放送の「カヴァーズ」で、すでに披露済みだから、皆さんご存知、ではあるのだが、畠山美由紀の大転換点となる名唱である、と思う。
そこから、藤圭子「圭子の夢は夜ひらく」、美空ひばり「悲しい酒」、森昌子「越冬つばめ」、中島みゆき作、研ナオコ歌「かもめはかもめ」と、怒涛の歌唱である。
10曲目は、また、ちあきなおみ「紅い花」、最後はオリジナル「歌で逢いましょう」とおしゃれな曲に戻って終わるが、このアルバム、畠山美由紀の「信仰告白」のような、ついにここに到達した、そんなアルバムである。
ところで、蛇足だが、宇多田ヒカルの歌が素晴らしいのは、どの曲を聴いても、その奥底にここで歌われている「圭子の夢は夜ひらく」の歌が、藤圭子のあの声が、いつもいつも響いているからだ。宇多田ヒカル自身の楽曲が、歌唱が素晴らしいものであることに間違いはないが、その奥深くに、圧倒的な奥行きを与えるあの歌が響いているからだ。
畠山美由紀は、この伝説の藤圭子の歌を見事に歌いつないだ、と言っていいと思う。
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