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2013年最後の日、つまり、大みそかだけれども、郵便物が届いた。
差出人は石津ちひろ。詩人で翻訳家、絵本作家。
お送りしている詩誌「霧笛」28号へのコメントをひとことと、2007年刊の1冊の本。赤い表紙に幅広の白の帯。
表紙の上端に「Dictionnaire de l’amour a Paris」(直訳すればパリの恋の辞書)とある。「パリの恋a.b.c」という書名は、翻訳した邦題という趣きとなる。(ちなみに、エー・ビー・シーではなく、ア・ベ・セと読みたい。)
帯にフランス語。「A paris, on ne vit que pour aimer!」(パリでは、ひとは恋なしに生きられない!)
aからzまで、その文字で始まる26の単語や語句を並べて、左のページにそのタイトルで短い文章、右のページには、イラスト。メグ ホソキさんのラフだけれども洒落たパリ風のイラスト。
ひとつめの言葉は、もちろん「amour」、愛・恋。
「サン・ジェルマン・デ・プレにあるカフェ、レ・ドゥ・マゴにて、耳にした言葉。
女友達のイザベルと。たわいのないおしゃべりをしていたときのこと。
ギリシャ出身の詩人という男性が、声をかけてきた。
一枚の紙きれを見せて、自分がいま書き上げたばかりの詩をぜひ聞いてほしいという。
そのはじまりは、こんなふうだった。
〈恋をすると ぼくは鳥になる
鳥になって きみの心の空を飛ぶ
きみの心が 澄み切った青空になるまで
ぼくはずっと きみの心の空を飛ぶ……〉」(amour全文)
右ページには、路上のカフェに座ってコーヒーを飲むふたりの女性と、そばに立って紙きれの詩を読む無精ひげの男のイラスト。男は、右手の紙切れに目を落とし、ふたりの女性は、関心なさそうにあらぬ方を眺めている。右下にテーブルにかかるように描かれたそこだけ赤いハートのマーク。
そうだよな、詩人は、こんなふうに女の子をナンパしなくちゃいけない。もちろん、無視されるときも多いが、ときどきは、成功することもあるさ、とぼくはうなづく。
こんな調子でzまで続く。
よく晴れた大みそかの遅い午前。そうそう、ちょうどコーヒーを淹れて飲みながら、ああ、この本は僕のために書かれた、描かれた本だとこころのなかでひとりごち、ほくそ笑む。こういう幸福なとき。
これが、こういう幸福なときであることに気づくために、ぼくにも様々な人生のエピソードが必要だった。ちょうどこの本に描かれた26のエピソードのように。(いや、26では足りなかったか?)
石津さんのお手紙のコメントは以下のようなもの。
「いつもありがとうございます。今回も(千田さんの作品をはじめ、西城さんの詩、エッセイなど)すべて楽しませていただきました。ありがとうございます。」
いえいえ、こちらこそ、本当にありがとうございます。
このあいだの、ささめやゆきさんの絵のついた「いとしい小鳥 きいろ」(発売河出書房新社)と同じように、いや、ひょっとすると、それ以上に、至福のひとときを過ごすことができました。
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