Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

頬っぺ つんつん

2021年04月08日 15時10分25秒 | エッセイ

      ふっくらして、すべすべの頬っぺを
      たまらずつんつんすると、見知らぬ爺さんの
      そんな無遠慮な振る舞いに、
      ちょっとまごついたような表情をする。
      それがまた可愛く、指先がもう一度頬に触れる。
      

        
      

      甥っ子の腕にしっかり抱かれた、生まれてまだ半年の
      男の子が、お初の挨拶にやってきた。
      
      甥は確か僕の長女より一つ下だったから、もう50歳のはずだ。
      そんな年齢になって初めて抱く我が子とあれば、
      その喜びを隠すのは難しかろう。
      目尻は下がりっぱなしである。

      自らを振り返ると、我が子だとあまりにも時間が経ちすぎ、
      どうにか思い出せるのは23年も前の初孫の誕生だ。
      あの日の朝6時頃、病院からの電話に叩き起こされ、
      車を急がせた。
      看護師さんの腕の中にいた、小さな、小さな女の子。
      看護師さんは初孫見たさに駆け付けた祖父母に、
      その子をそっと渡してくれた。
      あまりの小ささにちょっぴり怯みながらも
      腕の中にしたあの感触、その記憶は随分と薄れて
      しまっているのだが、甥の抱く幼子のけがれのない表情が、
      たちまちあの時の喜びを蘇らせ、心を和ませてくれる。

                          
      
      甥は、バツイチである。
      前妻との間には、残念ながら子に恵まれなかった。
      ただ、それが甥の離婚理由ではない。
      いろんな事情が重なった挙句のことだった。
      離婚したのは確かに不幸なことではあっただろう。
      別れないで最後まで添い遂げることが出来れば、
      それが最善なことに違いない。誰しもそう望んで結婚する。
      だが、夫婦間にはままならない感情のズレが生じやすいものだ。
      それは当の夫婦だけにしか分かりようのないこともあり、
      傍が離婚の理由を分別臭く断じるのは難しい。
      訳がよく分からないままに離婚する夫婦も、
      この世間にはたくさんいるのである。

               
      
      離婚がひどい打撃を与えもする。
      肝心なのはそこから立て直す強い意志を持つかどうかである。
      幸い、甥は強かった。
      そして2年ほど前に新たなパートナーと出会い、
      初めて我が子を抱けたのである。
      寄り添ってくれる妻、生まれてきた我が子、
      2人が心の傷を癒してくれる。
      だらしないほどに、くしゃくしゃとなった甥の表情が、
      そうだと言っている。
     
                  
 
      「どうか、パパを幸せにしてあげて……頼んだよ。
      そして君もパパやママと一緒に幸せになってください。
      そう祈っているからね」幼子の耳元にそっとつぶやいた。