Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

老いた眉

2021年05月16日 13時37分31秒 | エッセイ

      ベッドに仰向けになり、何をするでも、考えるでもなく
      ただ、ボーっと天井を見つめ、眉を指でスーッと
      伸ばすように引いたら、1本抜けてきた。
      その2センチほど、やや長めの眉を
      目の前に持ってきて、じっと見つめると
      それは間もなく抜け落ちるであったろう老いた眉だった。

          

      毛にも生え変わるサイクルがあり、
      ある期間がくると抜け、
      また新しい毛が生えてくる。
      だが、年を取るとそのサイクルが狂い、
      抜け落ちないまま長く伸びてしまう。
      老人に長い眉の多いのはそのためらしい。

      すでにその一人になった身。
      抜け落ちきれずにいたこの眉を、知らぬうちに
      指で引き抜いてやったわけだ。
      見れば、やっぱりみすぼらしい。
      全体にピンとした張りがなく、
      真ん中あたりには傷がある。
      もう少し強く引いていたら千切れていたかもしれない。
      指で引いた時も、抜けたという感覚、
      たとえば、ちかっとした痛みさえせず、
      ただ、親指と人差し指につままれて抜けていた。

        

      なぜ、こうも毎年入院を繰り返さなければならないのか。
      ほとほと嫌になる。
      だが、病棟のあちこちには私以上に
      苦しんでおられる方がたくさんいる。
      少しばかりの苦痛で済む私は、
      こう愚痴れるだけ好運なのかもしれない。
      入院すると、いつもこう同じことを思う。

      北部九州も梅雨入りした。
      窓越しの空はもちろん厚い雲がどんより覆っている。
      雨はそれほど強くはないが、
      それこそしとしとと降り続いている。
      鬱陶しくはあるが、ここを過ぎれば真夏の陽が降り注ぐ。

      そんな自然の理を思いながら、無事退院した。