Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

「移り気」で「浮気」な

2021年05月21日 06時00分00秒 | エッセイ


     梅雨入りを待っていたかのように、
     庭の片隅に置いた鉢植えの紫陽花が花を咲かせた。
     時折、小雨がパラパラと降りかかる。
     ああ、やはり梅雨時を盛りとする紫陽花には雨がよく似合う。
     無論、何事にも加減というものがあり、
     雨であっても篠突く雨が紫陽花を叩いたのでは風情を失くす。
     紫陽花には雨露が花弁に丸く転がるような、
     そんな小糠雨が程良いのだろう。

           

     だが、紫陽花のあの可憐な美しさに騙されてはいけない。
     見た目の美しさの裏には、なんとも怖い本性を隠している。
     花の色はコロコロと変わっていく。
     それで花言葉が「移り気」「浮気」なのである。
     さらに、別名が「七変化」「八仙花」とさえ……。

     もう5年、いや6年前だったか、6月に夫婦で鎌倉を訪れた。
     鎌倉と言えば、やはり紫陽花だ。
     鎌倉には、それぞれに由緒ある神社仏閣が多くある。
     その厳かさの中に、紫陽花が品を漂わせて咲き、
     しっとりとマッチする。
     それに多くの人が魅かれ、やって来るのである。
     北鎌倉駅から円覚寺へ、さらに「あじさい寺」と呼ばれる
     明月院へと巡る。
     ここは日本古来の姫アジサイが主で青一色。
     〝明月院ブルー〟と言われるだけあって、
     さすがの眺めだった。
     院内の重々しい静けさ、それに紫陽花がひっそりと
     彩りを添えている。
     だが、この青い花の色は、もう一つの花言葉
     「冷酷」「無情」を連想させる。

          
                            明月院で
     
     さらに鎌倉駅から江ノ島電鉄で長谷寺へと向かった。
     明月院の紫陽花が青一色だったのに対し、
     こちらは色とりどり、さまざまな種類の紫陽花が見事だった。
     色とりどりのさまが、「移り気」「浮気」へとつながっていく。
     なんとも気の毒な花言葉である。

                                    長谷寺で

      福岡にも近場に紫陽花の名所は数々ある。
      これからが本格シーズンであり、観賞へ出かけたいところだが、
      コロナが両手を広げて待ったをかける。
      うかうかすると、見逃がしかねない。
      何と言っても「移り気」「浮気」な花なのだ。
      待っていてはくれないかもしれない。