Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

男の居場所

2021年06月11日 14時30分01秒 | エッセイ

      川沿いの道路に軽乗用車がポツンと止めてある。
      どんよりと曇った日の、陽が傾いた5時頃。
      近づいてみると、中年というにはやや老けていて、
      それでも高齢というには気の毒と思える男性が、
      シートをやや倒し本を読んでいる。

           
      
      窓は前後左右すべて開け放し、緩やかな川風が通り抜ける。
      おそらくFMラジオからであろう、
      ストリングスがかすかに聞こえる。
      右手指先のタバコの煙は薄い。
      一人だけの、何の煩わしさもない世界……
      この人にとり、これは喜びなのか、悲しさなのか。

        

      「男の居場所」(酒井光雄著)という本がある。
      この本は──人生の終盤だと思っていた「定年後」が、
      実は人生の後半戦であり、まだまだ元気で楽しく過ごしたいと
      思っているのに、どうすればよいか分かず、
      自宅で何をするでもなく、毎日だらだらと過ごす。
      そんな多くの「定年後」の男たちに、
      居心地の良い最適な時間を過ごすには、
      どうすればよいのか筆者が自身の体験や理論に
      基づき語りかけている。

        

      「定年後」をどう過ごすか。
      これは思った以上に難しい。
      私自身が痛切に感じる。
      今のコロナによる自粛生活にしてもそうだ。
      つくづく思い知らされるのだが、
      のんべんだらりと過ごす夫に妻は三食を用意するなど、
      何だかだと手のかかる夫の存在にうんざりし、
      苛立ちから粗大ごみ扱いしてしまうことさえある。
      かといって、「冷たいではないか」と
      その所業を責めるわけにもいかない。
      その大変さ、苛立ちは、なるほどよく分かる。


      コロナの自粛生活にしてこれだ。
      「人生100年時代」とあれば、「定年後」の生活は
      ますます長くなっていく。自粛生活の比であるまい。
      そう考えると、我ら男は、「定年後」をいかに過ごすか、
      よくよく考え、努力しなければならない。


      随分前になるが、「オトコの居場所」という
      テレビドラマもあった。
      会社では〝女の園〟である秘書課で
      女性たちに囲まれ悪戦苦闘し、
      家はといえば妻、妻の母、それに娘と女性ばかり。
      居場所のないオトコのこもごもを
      コメディー風にしたものだった。

      「男の居場所」と「オトコの居場所」──
      描かれている中身は違ってはいるが、
      男=オトコにとっては、
      どちらも何とも身につまされる話である。

    
         あの車の男性……彼はどんな理由があって、
         あそこで本を読んでいるのだろうか。