この季節、あちらこちらのひまわりたちが、
まるで手招きするかのようにそよ風に揺れている。
夏の太陽を浴びながら一面に広がるひまわり畑。
人がその中にすっぽりと飲み込まれそうになる。
それにしても夏の青空がよく似合う花だ。
空の青を背にした黄、この鮮やかなコントラストは情熱的でさえある。
そして、花言葉が教えてくれるように、
お日様に「憧れ」、そして「あなただけを見つめていたい」というのか
四六時中追い回す。
よほどお日様を慕っているのであろう。
特に思春期の花たちがそうだ。
そんなひまわりたちの振る舞いを見て、
漢字では『向日葵』、あるいは『日回り』『日廻り』などと書き、
英語でも『Sunflower』という。
それほどにお日様とは切っても切れぬ仲なのである。
ひまわり畑がスクリーンいっぱいに広がる
印象的な映画がある。半世紀も前に公開された
イタリアを主舞台とする『ひまわり』だ。
だが、この映画はひまわりのあの明るさとは反対に、
第二次大戦によって引き裂かれる
夫婦の切なくも悲しい物語である。
夫役のマルチェロ・マストロヤンニ、妻役のソフィア・ローレンの演技、
特にソフィア・ローレンが激しく、あるいは静かに
悲しみにくれるシーンに思わず涙したものである。
I Girasoli (ひまわり/Sunflower) - Love theme from 'Sunflower'
イタリア、フランス、アメリカの三カ国と、
東西冷戦中だったにも関わらずソ連が
欧米諸国の映画製作に加わった話題作でもあった。
実は、この映画のひまわり畑のロケ地は、
現在のウクライナの首都となっているキーウの
南五百キロの小さな村だという。
ロングショットで捉えた見渡す限りに広がったひまわり畑、
そしてズームで捉えれば風に揺れる花々が
何かを語りかけるようにさまざまな表情を見せる。
このひまわりの下には、大戦の犠牲となった
無数のイタリア兵、ドイツ人捕虜、それにロシアの民間人が眠っており、
ひまわり畑と隣り合わせに墓地がある。
そよ風に揺れるひまわりの表情は、
その苦痛と悲しみのものであろうか。
流れるヘンリー・マンシーニの曲に一層哀愁が募る。
あのひまわり畑は今もあるのだろうか。
ウクライナは今、戦火の中にある。
ひまわり畑にまた新たな戦没者が加わってはいまいか。
ウクライナの国花はひまわりである。
そのウクライナを侵かすロシアのそれもそうだ。
戦火やまず。ひまわりは戸惑い、悲嘆するのみ……。