Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

「兄ちゃん」と呼ぶ

2022年08月14日 06時00分00秒 | エッセイ


姪は僕のことを「叔父さん」とは呼ばない。
「○○兄ちゃん」と言う。
80歳になる、この爺さんをつかまえてである。
一番上の姉のひとり娘である、その姪にしてももう60半ばだ。
つい先日、介護施設にいる姉の状況を聞こうと思い、姪にLINEしたら、
「○○兄ちゃんもお身体大切にしてください」と返信があり、
そして、「何だかこの呼び方はテレますね」と添えていた。
実のところ、テレるのはこちらの方なのだが、
にやっと笑うだけで、これには何にも返さなかった。


「兄ちゃん」呼ばわりするには、やはり訳がある。
姪は僕が中学生の時生まれている。
姉はこの子を連れてよく里帰りしていた。
そして、僕に姪の守りを言いつけたのである。
何せ、末っ子の僕を母親代わりに面倒を見てくれた姉だ。
しかも、1つになるかならないかの可愛い女の子である。
「いや」と言うわけがない。
でも、何かをして遊ぶなんてことはできない。
もっぱらおんぶし、あやして寝かせつけるだけだ。

          

ある時、「よいしょ」と手をお尻にやると異変を感じた。
「姉ちゃん、姉ちゃん」大声で呼ぶ。
「何ね、どがんしたとね」と言いながら、姉がやってきた。
「背中が何か温くなった」
とたんに姉が大笑いした。
「おしっこしたんやろ。どらどら」姉は紐をほどき、
僕の背から姪を降ろしながら、確かめていた。
「やっぱり、そうやった」笑いはまだ続いていた。
「姉ちゃん、何か生ぬるくて気持ちの悪かとばってん……」
「あぁ、シャツがちょっと濡れとるね。着替えてこんね」
「○○、もうお前は……」と姪を睨むと、姉はまたまた大笑いし、
「これで、あいこたい。うちも、おうちから何度も
同じ目にあわされたもんね。○○、ようやったね」
「もう」今度は姉を睨んだ。
こんな笑い話みたいな記憶もたくさんあるから
姪が還暦を迎えたとはいっても、僕の中ではいつまでも
「小さな子」であり続けているのだ。

そんな姪が大きくなっていくと、姉は娘の前では僕を
「○○兄ちゃん」と呼んだ。母親が僕をそう呼べば、
その子もそう呼ぶに違いないのだ。
それが今も続いているだけの話。
今更「叔父さん」と呼ばれるのも照れくさい。
これから先も、ずっと「○○兄ちゃん」で結構。

      

「叔父さん」と呼ばれるより姪との距離感を近く感じ、
何だか心が温かく、和む。
それは僕の気持ちを姉の元へも近づけていくのである。
6人いた兄弟姉妹はいまや、この姉と2人きりとなった。