Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

キューピーさん

2022年08月16日 09時11分47秒 | エッセイ


黄色の服に、同じ黄色の帽子。
セーラー服みたいな襟に大きなリボンをつけている。
よく見ると、左の肩からバッグを下げている。
まん丸の目をぱっちりと開き、愛らしい顔のキューピーさん。
いつも机の上で愛想を振りまいている。
たまに、隅っこの方に追いやられ、
邪険にもごろんと転がされている。



孫たちのものではない。3人の孫は一番下の子でも来年が成人式だ。
キューピーを欲しがる年はとっくに過ぎている。
実は妻のものなのだ。
孫たちのおもちゃにもならない。
しばしば邪険に扱われ、隅っこに転がされている。
それならば、もう処分してもよいのではないか。
そう思うのだが、妻は絶対に手放そうとはしない。
それは母(私にとっては義母)の形見みたいなものだからである。 
「いつ、なぜ母からもらったものか覚えてもいない」
ほどのものだが、「母からもらったもの」との思いが
全身に張りついていて、机の隅っこに転がしていても
手放してしまおうと気には決してならないという。

その母は、平成3年5月がんで亡くなっているが、
一時、福岡の病院で治療を受けていた。
その時妻は仕事帰りの疲れた身で、
毎日のように病院通いをしたものである。
妻にすれば、母の最期を看取ったに等しく、
そんな母が毛糸を編んで着せてやったキューピーさんを
簡単に手放すなんてことが出来ようもない。
そんな気持ちなのであろう。よく分かる。
いつまでも机の上に置いておけばよい。
誰も邪険にはしないよ。