Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

薄くなる電話帳

2022年09月09日 14時38分43秒 | エッセイ


スマホの電話帳をめくってみた。
42年間携わってきた仕事に関連する会社、あるいは
それに伴う人たちの名がずらり並んでいる。
6月末で退職したから、これらの電話番号を
必要とすることはもうないはずなのだが、
何とも未練がましいことに削除しないまま残している。
娘、孫、姪、それから義兄、義姉といった
身内の電話番号が、ぽつんぽつんとそれらの間にある。

      

年を取ると、2つの「喪失」に見舞われる。
1つが「健康」である。
何事につけ経年劣化は避けがたいものであるが、
人の体も、たとえば足腰の関節は長年の〝勤続疲労〟で歪んで痛み、
目の焦点は合いにくくなる。
また、五臓六腑のあちこちもやはり〝勤続疲労〟が現れてきて、
医師は「加齢のせいですな」の一言で片づける。
その程度で済めばまだしもである。

もう1つが「人」である。
仕事というのは、人と人との関わりによって
成り立っているとも言えるから、定年退職というのは
人との関わりも薄れていくことを意味する。
そして、ついにはそれらの人さえ失くしていくのである。
仕事を通して親しくなり、
プライベートでも付き合っていく人もいるが、
そういう人はそう多くはないはずだ。
中にはすでに故人になられた方もいる。
やはり、1人また1人と失くしていくというのが現実であり、
電話帳は薄くなっていく一方であろう。

           

人との関わりがなくなってしまう残りの人生。
そんな残酷な余生をどう生きていけばよいのか。
ひどく悩ましい問題が突き付けられる。
実は、多くの人が同様の悩みを抱えており、
そのためか定年後の人生をどう送ればよいか、
その方策を示してくれる本が、書店にさまざまに並んでいる。
そして、一様に「自らの役割を自ら探し求めよ」とし、
「まず何らかの『目標』を設定することから始めたがよい」
などと書かれている。
個人の趣味でもよいし、できればそれによって仲間の輪が広がり、
さらにそれが社会的活動につながっていければさらに良し。
こうアドバイスするのである。
電話帳が薄くなるのはしようがない。
少数の人たちであっても、趣味などを通して出来た
友人を1人でも多くし、それらの人たちの電話番号が
元気にしてくれればそれでよいではないか。



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