Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

シングルレコード

2020年10月23日 06時00分00秒 | エッセイ
「テーブルの上にお菓子の箱があるでしょう」
仕事から戻ると、「お帰りなさい」に続けて妻はそう言った。
「ほほう、どんなケーキかな」甘党の僕はニンマリとする。
「では早速……」開ければ、そこにケーキはなく、
ドーナツ盤、つまりシングルレコードが何十枚も重なっていた。
でも、がっかりもせず、腹も立たなかった。
むしろ、ケーキへの思いはたちまち消え、
「どれ、どれ」とそれらのレコードを探り始めたのだった。
「押し入れの中を整理していたら、そんなのが出てきたのよ。すっかり忘れていたわ」
そう言えば、妻は前日から押し入れをゴソゴソやっていたっけ。

   五行説では「青」は春の色とされ、そこから夢や希望に満ち、
   活力みなぎる若い時代を春にたとえて「青春」と言うようになったのだそうだ。
   もう60年ほども前。確かに心身に活力がみなぎっていた。
   そんな頃、どんな歌を聞いていただろうか。
   僕はやはりビートルズ、これに尽きる。
   歌も髪型もファッションも、何もかもが新鮮だった。

だが、菓子箱の中にビートルズは一枚もない。
だまさしの「防人の詩」、日野美歌の「氷雨」、
佐藤隆の「12番街のキャロル」などといった邦楽、
アニマルズ、ロッド・スチュアート、レイ・チャールズ、
コリー・ハートなどの洋楽——何だかまったく一貫性のない
レコードが全部で34枚あった。
「防人の詩」「12番街のキャロル」などは40年ほど前に出ているから、
ビートルズに夢中だった頃に集めたレコードでないのは確かだ。
おそらく40歳ちょっと手前の頃に聞いていたものだろう。
 
   「青春」とは高校生の頃から30歳手前、そのあたりに違いないとは思う。
   だが、年齢だけでそう決めつけなくてもよいのではないか。
   知人は「幾つになろうとも、〝ときめき〟をなくしてはいけませんね。
   むしろ、年を取るほどに〝ときめき〟が必要かもしれません」と言った。
   その言葉が、なぜか僕の胸の中に張りついたままになっている。

菓子箱の中に重なる34枚のレコード。
これらは最初の「青春」を終え、さまざまな喜怒哀楽を積み重ねた末の、
ちょっぴり大人の哀歓をにじませた40歳あたり、
「第2の青春」とも言うべき時を過ごした証しに違いない。
これらの歌に、心ゆらし、ときめきながら聞いていた記憶がじわりと蘇ってくる。
僕にとり、あの頃もまた大切な青春時代であり、
それを押し入れの中にしまい込んだままにしていたのだ。

   美術館に併設した喫茶ルーム。
   最年長はなんと98歳、最年少は53歳の、
   親・子・孫3世代ともいえる年の差の男4人、女3人、
   合わせて7人の友がテーブルを囲み、ゆったりとした時を過ごしている。
   重ねて思う。「青春」というのは年齢に関係ないことだと。
   友人たちが、共に喜怒哀楽を感じ、心和む時を過ごす——
   これもまた「青春」であろう。
   僕は今、「第3の青春」を楽しんでいる。そうに違いない。


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1 コメント

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Unknown (chiyo6213)
2020-10-25 03:10:22
第三の青春良いでーすねー〜私は第四かな?80歳のばあば👵です♪
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