Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

すまない

2021年11月12日 06時00分00秒 | エッセイ



2つ違いの兄が、50を待たず独り身のまま他界したのはいつだったか。
「○○叔父さんの命日、分かりますか」
 長崎の姪からの、突然のLINEはそれを尋ねるものだった。
「先日、父の墓参りに行き、墓石を見たら
叔父さんの命日だけが記されていないんですよ」
「えっ、おかしいな。ちゃんと刻まれていたはずなんだがね」
「それが、どう探してもないんです。
一人だけ、寂しいじゃありませんか。
命日が分かれば、お参りもしてあげようと……」


長崎にある当家の墓には、両親はもちろん、
姪の父親である長男、次女の姉、
それに三男のこの兄も入っているのだ。
姪は自分の父の墓参りに行き、墓石に刻まれた
それぞれの命日をなぞっていて叔父のだけがないのに気付き、
なぜだろうと思ったらしい。


「分かりますか。分かれば、ちゃんと
刻んであげたいと思っているんです」
だが、「ありがとう」と言ったきり次が出てこなかった。
「平成4年」だったことははっきり覚えている。
それなのに月日をどうしても思い出せないのである。
「年始め、1月か2月だったように思うんだけどね。
確か何かに控えていたはずだ。調べて分かり次第連絡するよ」


そう請け合ったのだが、探せどもそれが見つからないのである。
他に分かる人といえば、ただ一人、いちばん上の姉がいる。
だが、あいにく長年の闘病生活中だ。
兄の命日を聞くなんて、とても無理だろう。
何としても控えたものを探し出さなければ——
身内の、それも年が近く小さい頃からいつも
一緒に遊んでいた兄の命日を覚えていないなんて。
恥じ入り、情けない思いをしながら半月ほど経ってしまった。

       

「叔父さんの命日、刻んでありました。
雨風ですっかり痛み、消えかかっていたんですよ」
姪の今度のLINEは、私の心をほんの少し軽くしてくれた。
「平成四年に間違いありませんでした。
月日はよく分からなかったのですが、
今度業者さんにきれいにしてもらいますから、
大丈夫、分かるでしょう。また連絡します」

「ありがとう、ありがとう、ありがとう」
許せない自分をなだめつつ、震える指先で返信した。



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