次女の一人娘・ハナは、二十歳の大学三年生だ。
この子が二つになるかならない頃だったろう。
我が家の書棚に飾っていた写真を見て、突然ワアワアと泣き出した。
写真には小さな女の子を抱き、にっこり笑っている母親が写っていた。
実は、この女の子は長女の子・リサで、
当時香港に住んでいた姉を結婚前の妹が訪ねた時撮ったものだった。
だからハナとリサは従姉妹同士ということになるのだが、
まだそんなことを知るはずもないハナにすると、
自分の母親が知らない女の子を抱いているものだから、
めらめらと嫉妬心が湧いたのだろう。
この小さな、小さなやきもちに周りにいた皆が心和やかにほほ笑んだものだ。
すっかり大人になった、そのハナがやはり声を出して泣いている。
思わぬ母親の病。
検査を終えて出てきた母親を見ては泣き、
手術室に入る母親の胸に顔を寄せては泣く。
手術は約2時間かかると告げられた。
でも、もう2時間を過ぎている。
ハナは落ち着かぬ気に待合室を飛び出して手術室の前を行ったり来たりする。
ついには、手術室のドアにもたれ座り込んで母を待った。
やっと手術室のドアが開いた。
横たわる母親にすがりついて、また泣く。
麻酔の覚めない母親はかすかにうなずく。うつろな目尻から一筋。
幼い日のハナの涙、大人になった日のハナの涙。
祖父母は昔日の涙には笑い、この日はもらい泣きする。
でも温かさが残りました。