【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ワイン/『プルターク英雄伝(一)』

2008-11-27 18:47:56 | Weblog
 フランスワイン・イタリアワイン・スペインワイン……なぜ全部英語で「ワイン」と言うのでしょう?

【ただいま読書中】
プルターク英雄伝(一)』プルータルコス 著、 河野與一 訳、 岩波書店(岩波文庫)、1952年(62年10刷)、★★
 昭和20年代の初版で「ギリシャ人には苗字がなくて個人の名だけを呼んだ。混同を避けるには父の名を添へて誰の息子誰と云つた」といった文体で書かれています。時代を感じます。まあ、もともと古代のことを扱った本ですから、文体も古い方が雰囲気は出ますが、読むのはちょっとホネだな、と感じます。
 本書では、ギリシア人一人とローマ人一人の伝記を述べたあとその対比を論じる、という形式で22組の対比(プラスα)を行なった大著です。この文庫本は12分冊のシリーズで、本書では、テーセウス・ロールムス・リュクールゴス・ヌマが扱われています。最初の二人しかわからないなあ。
 読んでみると語り口がなんとも軽妙です。これは原文がそうなっているのか、それとも訳文の手柄か。すらすらと読めます。ヘーラクレースの向こうを張ってテーセウスが各地で力比べの後、アテーナイに乗り込み、ミーノータウロスと白い帆と黒い帆のお話となり……
 ロームルスの話は、「ローメー(ローマのギリシア名)」から始まります。それは女性名でその人はどこから来たかというと……ということで様々な伝説が紹介されます。ロールムスとレムス兄弟が狼の乳などで育てられ、長じては新しい町を作り…… 『ローマ人の物語』の前半で重要事項として扱われていた「パトロー」(庇護者)と「クリエーンス」(大衆、依附者)についてもここで結構ページを取って説明がしてあります。ローマ人にとってもこれは重要な概念だったことは間違いありません(プルタルコスはギリシア出身ですが「ローマ人」であることは間違いありませんから)。

 そして「ロームルスとテーセウスとの比較」。ここでは、「国家の礎」を築いた2人が、まったく別の方法(「どちらも正道から外れた」とプルタルコスは評します)を選択したことが述べられ、そこから「支配者論」が展開されます。支配者はまず支配権を保たねばならないが、それは、不当なことを差し控えるか正当なことを守るかしかない。しかしどちらも控えすぎか行き過ぎとなり、結局民衆の心に憎悪か軽蔑を植えつけてしまう、のだそうです
 さらに「さて不運といふものは、全部をの仕業としてはいけないもので」と著者は説きます。この人、本当に古代人ですか? 当時のローマ(あるいはギリシア)がそんな風潮だったのか、それともプルタルコスが“突出”していたのか……
 「古代」ローマと言いますが、彼らにとっては「現代」で、そこから「昔」を振り返って「現在の自分」を考えようとしているわけで、私たちが織田信長・豊臣秀吉・徳川家康を比較したり幕末期の人物伝を喜んで読むのと、基本的態度としては共通したものが多いのかもしれません。

 後半のリュクールゴスとヌマについては、予備知識が皆無なので流し読みです。もったいないけれどしかたありません。このシリーズには「アレクサンドロス/カエサル」の巻があるそうなので、それは読んでみたいと思っています。