【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

単刀直入なメッセージ

2013-01-13 06:48:57 | Weblog

 「教師の体罰」によって自殺者が出た、という事件に関して、元プロ野球選手の桑田真澄さんが新聞の取材を受けていました(「「体罰は自立妨げ成長の芽摘む」桑田真澄さん経験踏まえ」(朝日新聞))。ご自身の殴られた体験と他の選手たちの観察や大学院での研究から「体罰」には益よりも害の方が大きい、という主張です。私は頷きながら読みましたが、同時に「この主張はたぶん“体罰肯定論者”の心には届かないだろうな」とも思っていました。何より「字数」が多い。千字以上の分量を必要とする主張よりも「厳しくしないと強くなれない」「体罰で伸びる生徒もいる」「体罰は有効だ」の短いセンテンスの方がはるかに“力”があります。
 かつて「原発は安全」「郵政民営化」「政権交代」などの短いフレーズが、それに反対する(疑問を呈する)長々しい文章に対してはるかに「ことばの力」の点で優越していたことも私は思い出します。
 根拠や論拠を丹念に求め論理や思考を地道に展開するよりも、感情や決めつけでぱしっと片付けてしまう方がはるかに“楽”ということなのかもしれません。そういえば「体罰」も「瞬間的にぱしっと片付ける」方式ですね。

【ただいま読書中】『11人いる!』萩尾望都 作、小学館文庫、1976年(89年50刷)、330円(税別)

 時々無性に再読したくなる本が私にはありますが、本書もその中の一冊です。家の本箱のどこかにあることはわかっているのですが、探す手間を惜しんで図書館から借りてきました。
 宇宙大学入学のための最終試験。集められた受験者たちは、協調性のテストとして漂流する宇宙船で53日を過ごすように命じられます。誰か一人でも脱落したら、全員が不合格。ところが初っ端からトラブル発生。10人一組のはずなのに、11人いるのです。
 余分な一人は誰か、そしてその目的は?
 疑心暗鬼でお互いを探り合う受験者たち。ところがそこで次のトラブルが発生。宇宙船には各所に時限爆弾が仕掛けられており、一定時間ごとに爆発するようになっていたのです。
 受験者の一人、タダトスレーンは傑出した直感力の持ち主ですが、彼の直感力は狂いっぱなしです。ということは「11人目」は、テレパス? それとも彼が「11人目」?
 さらに、爆発で宇宙船の軌道が変わってしまい、野生化した電導ヅタが異常繁殖を始めます。それは疫病の発生を意味します。まさかこれも、テストの一部?
 11人も登場人物がいますが、キャラの描き分けは明確です。それぞれの人物が、どんな事情を背負っているかが簡潔にしかし明瞭に示され、さらに短期間に彼らがいかに成長していくかも描かれます。また、この宇宙船そのものに潜む「秘密」が少しずつ明らかにされていく過程は、良質のサスペンス映画を観ているよう。すじもテンポ良くきびきびと進み、ラストの一コマまで一気に私は走り抜けることができます。
 若い頃私は「少女マンガ」を敬遠していましたが、本作で「ジャンルによる敬遠」が無意味な行為であることを思い知らされました。その点でも、著者には、感謝です。
 本書には「ユニコーンの夢」「6月の声」「10月の少女たち」も収載されています。SFっぽいのは「ユニコーンの夢」と「6月の声」ですが、この中で私のお気に入りは「10月の少女たち」。少女の心の揺れの表現が、もどかしくていじらしくてたまりません。
 しかしどの作品でも、登場人物の喉の線がきれいですねえ。見ていてほれぼれします。