【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

社会の歯車

2014-06-17 07:00:15 | Weblog

 「おれはどうせ社会の歯車だ」と「誰とでも取り替え可能な部品」扱いされることの悲哀を言いますが、では兵士は軍隊の何なのでしょう? やはり取り替え可能な部品ですが。

【ただいま読書中】『村上海賊の娘(上巻)』和田竜 著、 新潮社、2013年(14年12刷)、1600円(税別)

 本屋大賞を受賞した作品ですが、親父が読んで「面白かったぞ」と貸してくれました。
 織田信長による本願寺包囲が始まり7年。食料十万石を海路運び込んで欲しいという依頼が毛利家に届きます。毛利一家だけで織田に対抗するのは無理です。上杉謙信が上洛することが必要。さらに毛利水軍だけでは船が足りず、村上水軍(海賊)の協力が必要ですが、村上海賊の最大勢力を誇る能島村上は毛利とは反目していました。
 本願寺内でも毛利家でも様々な意見が対立しています。毛利家では、吉川元春は主戦派、小早川隆景は現状維持派です。ちなみに“主君”の毛利輝元はただのお飾り。
 能島村上の当主武吉の娘は景(きょう)と言う名前でした。伸びやかに育った肢体に乗った小ぶりな頭は鬼のような面相。村上海賊の掟で女は軍船に乗ってはならないとなっているはずなのに、平気で乗船し戦働きをしています。それもとんでもない荒くれなのです。
 尾張や京や安芸では「醜女」と呼ばれる景ですが、泉州では「美女の定義」が全然違っていると聞き、本願寺に食料(と自分自身)を差し入れようとする安芸門徒を本願寺まで届けようと小舟で瀬戸内海を渡ってしまいます。嬉しいことに泉州では「なんと美しい」と海賊たちにもてはやされた景ですが、残念ながら好みの男は見つかりません。そして翌日、「戦」が始まります。織田軍は本願寺に付けられた木津砦に襲いかかったのです。対して本願寺からは、手薄になった天王寺砦を目指して紀州雑賀衆が出陣します。織田軍の総大将は鉄砲に撃ち取られ総崩れになりかけますが、そこで「海賊の戦」が(陸戦なのに)功を奏します。なんとも無茶な展開ですが、「ルールなんかない」のが戦争ですから、頭の良い人が立てた作戦通りには戦場では話は進まないものなのです。
 それにしても「頭のよい人」が作った「進めば極楽、退けば無間地獄」の旗を見て無学な景が「その理屈はおかしい。『南無阿弥陀仏』ですでに極楽は“約束”されているはずだ」と一瞬で見抜くシーンは印象的です。
 各地の方言丸出しで好きなことを言う魅力的な人物が次々登場します。命がとても軽かった乱世の時代に、どのように生きるか(死ぬか)を真剣に模索していた人びとの物語です。単に「歴史ロマン」で好き放題書くのではなくて、参考文献で「歴史の枠組み」をきちんと構築してからその中でのびのびと登場人物を活躍させている、という感じの歴史小説です。上下巻併せて1000ページ近い長編ですが、上巻はあっという間に読み切ることができました。登場人物の生きる勢いにこちらの読む姿勢も活性化されたようです。