【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

結び目の内側

2014-06-24 06:47:14 | Weblog

 ことばや人は「結び目」のようなものです。外側から眺めてもいろいろなことは見えますが、実際にはその結び目を解いてみないと、その“内側”は見えません。もちろん、ほどくやり方は各人それぞれ。中にはゴルディアスの結び目よろしく、ざっくり断ち切る人もいるでしょう。それで「断面」は見ることはできますが、問題は「結び目」を再現できなくなったことです。

【ただいま読書中】『ハーバード大学はどんな学生を望んでいるのか?』栄陽子 著、 ワニ・プラス(ワニブックス)、2014年、840円(税別)

 「ハーバード大学」の創立は1636年、アメリカ建国の前です。現在、大学院を含む総合大学(ユニバーシティ)の中に「日本での(高校卒業後に進学する)大学」である「ハーバード・カレッジ」が含まれています。面白いのは、ハーバード・カレッジから大学院への優先入学制度はないこと、それとハーバードで博士号を取得したらハーバードには残れない、という制度です。
 ハーバードでは入学を専門に扱うプロ集団「アドミッションズ・オフィス」が機能しています(スタッフは40人だそうです。日本ではその名前だけ拝借してAO入試をやってますね)。
 「ハーバード白熱教室」で見たら驚くのが「多様な学生によるディスカッション」です。アドミッションズ・オフィスではその「多様性」を確保するために学生を選抜するのが原則となります。合格基準は公表されていませんが、私の推測では、たとえ成績優秀でも人種や学力や高校までの活動がほぼ同じ学生が2人いたら片方を切って、学力がそれより低くても全く違うタイプの学生を採用する、といったシステムなのではないでしょうか。それでもオフィスへの問い合わせが多く、ハーバードのサイトには「入試FAQ」が掲載されています。面白いのは『入学試験」がないことです。書類審査と面接ですべてが決定されます。
 まずは「願書」。本人の情報(氏名住所などや高校での成績など)にプラスして、家族についてもけっこう詳しく書く必要があります(職業や学歴も記述が求められています)。「活動」では、リーダーシップを取ったか表彰されたかと同時に大学入学後も続けたいか、も聞かれます。「エッセイ」は、「あなたの出願者としてのアイデンティティの核となるバックグラウンドやストーリーを教えて下さい」「失敗した出来事や、失敗したときのことを詳しく述べて下さい。それがあなたにどのような影響を与え、あなたは何を学んだのでしょうか?」「ある信条や見解に異議を唱えたときのことを表して下さい。その理由は何でしょうか? 再び同じ異議を唱えますか?」「あなたがとても満足した場所や環境について述べてください。そこであなたは何をしましたか? その満足した理由も述べてください」「あなたの文化・コミュニティ・家族のなかで、あなたが成長するきっかけとなった功績や出来事について述べてください」の選択肢の中から一つを選んで250~650ワードの制限内で書きます。さらに、取りたい学位や就きたい職のプラン…… 単に「優等生が“良い大学”に入学する」のではなさそうです。「推薦状」は2通必要です(本書によれば「面白い推薦状」が必要だそうです)。「特異な体験」も重視されますし、芸術分野でなにか得意だと有利になります。
 本書を読んでいると、知性と教養があり、リーダーシップを持ち、その人ならではの何らかの得意分野を持っている、という“スーパー高校生”が必要とされているようです。では実際にアメリカの高校でどうやってそんな学生を育成しているのかといえば……まず指導されるのが「学校の成績を上げる」。ついで「新聞を読め」「課外活動をしろ」「クラブ活動をしろ」「ボランティアをしろ」だそうです。……それだけ? なんだか日本の「受験生」とは相当違うようです。というか、アメリカでは「受験生」になるのではなくて「高校生が学校生活を頑張った延長上で大学を受験する」という発想なのかもしれません。
 学費は、とんでもなく高いものです。基本的に全寮制なので、学費・寮費や食費で年に6万ドル! それをぽんと払える人はさすがにアメリカでも少ないのでしょう、各種の奨学金が充実しています。ただし年収20万ドル以上の家庭の学生は奨学金が受けられません。逆に貧しい家庭ではローンを過大に組ませないように大学が制限をしています。経済的にも多様な学生を確保したいようです。
 授業は一日に3時間くらいです。しかしそのための予習復習や宿題に5~6時間かかります。そういえばハーバードでしたっけ、「成績・友情・睡眠、のどれか一つはあきらめろ」という言葉がある学生寮があると聞いた覚えがあります。なかなかシビアですね。
 「ハーバード大学」は一つの「アメリカの大学の一つの例」に過ぎません。他にも様々なタイプのカレッジがあるそうです。ハーバード大学が「学生の多様性」を求めているように、アメリカという国は「多様なカレッジ」を求めているようです。ただしそのどこに行ったとしても「お仕着せの人生のコースを望む」のではなくて「自分で自分の人生を作る」国民が求められているようです。日本とはずいぶん違うやり方ですが、漠然と「良い大学に行きたい」ではなくて、「アメリカという社会システム」を理解した上で「ハーバードで学びたい」と望む人は、中3~高1くらいから準備をしたら間に合うかもしれないそうです。それでも「偏差値○○以上」なんて“合格基準”は存在しないのですが。
 なかなかシビアです。