型を破るためにはまずその型を身につける必要があります。つまり、型破りの前にその人は保守になる必要があります。さて、しっかり型が身につきました。ではそれを破りましょう。そこで最初に破るべき「型」は、自分が身につけた型です。つまり、自己変革をする勇気を持つ人間が本当の意味での型破りの人間です。保守でもなければ自己変革もしない「型破り」は、自分だけは大切にして回りを破壊して回る迷惑な存在でしかありません。
【ただいま読書中】『すべては1979年から始まった ──21世紀を方向づけた反逆者たち』クリスチャン・カリル 著、 北川知子 訳、 草思社、2015年、2300円(税別)
20世紀半ばの世界は「イデオロギー」で動いていたと言って過言ではないでしょう。しかし現在の世界は、共産主義や社会主義思想は色あせ、市場と(政治化した)宗教が世界を動かしています。この「転換点」が「1979年」にある、という着眼から本書は書かれました。
まず1978年、ローマ教皇にポーランド出身のヨハネ・パウロ2世が選ばれました。78年末には小平が中国の実権を握り中国の「改革」を開始しました。79年、サッチャーがイギリス首相に就任。イランのシャー(国王)が亡命し、パリからホメイニーが帰国します。そして、アフガニスタンの共産党政権に対する反乱を鎮圧するためにソ連が軍事介入を開始しました。
一見ばらばらの出来事ですが、実はすべてに“世界の通奏低音”が鳴り響き、ジグソーパズルのピースのようにこれらはぴたりぴたりと世界の表面に貼りついていってその模様を塗り替えていったのです。
かつてアフガニスタンは“ゆるい国”でした。国民は外国人に対して友好的で、59年にカーブル市内でのベールの着用は任意とされました。しかし73年にクーデターが起きて王制が廃止され大統領となったダーウードが「近代化」を進めようとして事態が変わります。強引な近代化(欧米化)に宗教の側から反発が起きたのです。短気なイスラムの若者は共産主義者のやり方を真似て「ムスリム青年団」を結成、「イスラム国家」の創設を謳います。彼らはダーウードによって弾圧されました。ダーウードが手本としたのはイランのシャーでした。
イランではシャーが63年に「白色革命」に着手していました。「赤色革命」を防止するために左派勢力を排除して国の近代化を進める「革命」です。しかし「近代化」は、宗教勢力、特にシーア派の怒りを買いました。弾圧された共産主義者とシーア派は牢獄で交流します。ホメイニーは神学校では優秀な学生でしたが、非正統的な教え(「イルファーン」というシーア派の神秘主義)も学んでいました。彼はやがて、神による統治を実現するために聖職者が政治にかかわるべきだと考え始めます。
イギリスは戦後「福祉国家」として生き延びようとしました。しかし、激化する国際競争と石油危機により、イギリスは危機に直面します。76年11月イギリスはIMFに緊急融資を求めます。「自由市場」を旗印に労働党から政権を奪取した保守党のヒースは、労働組合の抵抗などで腰砕けに。そこに登場したのが“反逆者”サッチャーでした。
カロル・ヴォイティワはナチス支配下のポーランドで非合法の地下神学校で学び、スターリン主義支配下で司教となりました。ヴォイティワは、カソリック信者だけではなく、弾圧されるすべての人の人権を守ろうと考えていました。ポーランド政府(とソ連)は警戒をします。
アフガニスタンでダーウードが倒され共産党政権が発足します。これはモスクワにとっては不意打ちでしたが、支援をすることにします。アフガニスタン国民は、かつてソ連がタジキスタンなどでイスラムゲリラを弾圧したことを知っていて「ソ連に支配されること」に反発します。アフガニスタンの“伝統”では、反乱は部族単位の決起でした。ところが1978年には、「ソ連」という巨大な敵に対して部族が連携して蜂起し始めたのです。さらに、欧米で学んだ若者の中に、イスラムによる国家支配を望む人たちが多く出始めます。これは、かつて西洋文明が自分たちよりはるかに高度な文化であるイスラムに対抗するためにルネサンスに救いを求めたことの、逆転現象なのでしょうか。
そして1979年は不確かさの霧の中で始まります。
ポーランドとアフガニスタンでの「反革命」はソ連に大きな負担となり、その崩壊を早めました。イギリスの「反革命」はアメリカのレーガノミクスと協力することで世界の政治経済を変革します。イランの反革命とソ連に勝利したアフガニスタンにより、イスラムには新しい潮目が生じます。そして中国での反革命(文化大革命に対する反動)により、中国は「世界の工場」として大成功します。
刺激的で面白い本です。着眼点で成功しています。「反逆者」と呼ぶのも「変革者」というありきたりの言い方よりも洒落ています。ともかく世界のあちこちで彼らは自分が置かれた環境を何とか変えようと行動し、それに成功してしまいました。しかもそれは「ローカルな成功」にとどまらず、お互いに影響を与え合うことによって「グローバルな変化」を世界にもたらし、その結果が「現在の地球」なのです。すると、現在の世界でおこなわれている「革命」とそれに対する「反革命」は、どんな未来を実現するのでしょう?