口では「ダイエットをしなくちゃ」と言いながらなぜか運動をしている人がいますが(本来「ダイエット」は「食事(療法)」のことです)、本当は「ダイエットが必要」なのにそれをしたくないから「運動」に逃げている、ということなのでしょうか。
【ただいま読書中】『新大陸が生んだ食物 ──トウモロコシ・ジャガイモ・トウガラシ』高野潤 著、 中央公論新社(中公新書2316)、2015年、1000円(税別)
アンデスは高度によって“分業”がおこなわれています。高度3200~4200mくらいはジャガイモ、それより下はトウモロコシ専業農家です。人々は市でそれぞれの産物を交換して日常的に食べています。
著者はアンデスを旅行中に、不思議な「イモ」を食べます。チューニョ(凍結乾燥させたジャガイモ)、カチ・チューニョ(1~2日間、天日と霜に晒したジャガイモ)、モラヤ(天日には当てず霜にだけ晒したジャガイモ)、氷のカヤ(オカというイモをチューニョと同じく凍結乾燥させる)、水のカヤ(オカをモラヤと同じ製法で処理)…… 決して農業の適地とは言えないアンデス高地(寒冷、乾燥、時に大洪水)で、人々は営々と農業を継続していました。
料理法も、スープにする、茹でる、砕く……本当に様々です。インカの食を支えていたジャガイモやトウモロコシは、15世紀から海外に広まり、あっという間に世界中で受け入れられましたが“本家”の特長は「バラエティ」のようです。。
アンデスでトウモロコシは、実にカラフルな品種があり、食べ方も様々でした。スープ、煎る、茹でる、チッチャ(濁り酒)の原料……もちろん、お粥やパンもあります。というか、パンはお粥を焼いたものでしたね。
ジャガイモが日本に入ったのは江戸時代はじめで「ジャガタライモ」と呼ばれたそうですが、広く栽培されるようになったのは明治になって北海道にアメリカから優秀な品種が導入されてからだそうです。ジャガイモの品種といったら、男爵やメイクイーンくらいしか私は思いつきませんが(しかもこの二つでさえ、食べて区別がつくかどうか自信はありません)、アンデスには4000種類のジャガイモがあるそうです。著者はそういった古典種系ジャガイモに興味を持って次々撮影(と味見)をしますが、これらの名前は品種名というよりほとんど個別名だそうです。13ページにわたってカラー写真がずらりと並んでいますが、これらをひとくくりに「ジャガイモ」と呼べるのか、という疑問を私は感じてしまうくらい、個性豊かです。本を読むだけでは味はわかりませんが、色・形・大きさ・内部構造があまりに違いすぎるのです。逆に、ここまで多種多様にならなければならなかった「ジャガイモの側の理由」というのも知りたくなります。
ペルー中北部の遺跡からは、8000年前のトウガラシの遺物が発見されたそうです。何を思って昔の人はこの辛さの塊をかじっていたのでしょう? もっとも害獣(鳥や野ネズミ)も好んでトウガラシを食べるそうなので、何か動物を惹きつける魅力があるのでしょうね。こちらも色・形・大きさ・辛さで多種多様ですが、さらに多種多様なのがトウガラシソースです。どのトウガラシを何と組み合わせるか、でいろんな味があるそうです。私がひかれたのは、胡桃の実とのソース。ピーナツとのソースは肉料理に合うそうですが、それよりも美味しいのだそうです。
ジャガイモ、トウモロコシ、トウガラシ以外にも、アンデス原産の作物はたくさんあります。最終章でそれらが駆け足で紹介されていますが、どれもこれもカラフルで美味しそう。また、これらの多くを居ながらにして味わうことができる点で、日本にいて良かった、とも思えます。