女性は全身をすっぽりと覆わなければならない、というイスラムの教えは、日焼け止め以外に「男を“その気”にしないため」という目的がある、と聞いたことがあります。もしそれが本当なら、女性蔑視であると同時に、男のことも馬鹿にしていません? 男は常に盛りがついていて女の素顔を見るだけで勃起して襲いかかる、と言っているわけですから。もうちょっと理性がありますよね? ……ね?
【ただいま読書中】『キルギスの誘拐結婚』林典子 著、 日経ナショナル・ジオグラフィック社、2014年、2600円(税別)
キルギスでは、540万人の人口の7割を占めるクルグズ人社会で誘拐結婚が堂々とおこなわれています。人権団体の推定では、全結婚の3割。その中には駆け落ちの変形もあるようですが、全体の3分の2は面識のない男に女性が誘拐されて結婚、という例だそうです。
最初に登場する「チョルポン(18歳)」は、バスに乗っているところを彼女に一目惚れをしたアマンが友人たちと車で追跡、バスから無理矢理降ろされ家に連れ込まれ6時間の“説得”で結婚の承諾をしました。キルギス社会では、女が男の家に入ることは(たとえそれが誘拐でも)“恥(純潔を失ったと見なされる)”で、結婚をしない限り(あるいは社会からの脱落者になるか死ぬかしないと)その男の家から出ることは両親に恥をかかせることになるのです。さらにここに女性も加担します。男の側の親類の高齢者の女性たちが「結婚をするように」と説得をするのです。キルギスでは高齢者は敬われる対象であり、その高齢者の説得を無下にすることは倫理にもとるのです。
悲惨な例もあります。結婚間近だった女性が誘拐されてレイプされ自殺。さすがにこれは事件として男は逮捕されました。一応キルギスでも、結婚目的であろうと誘拐は違法なのです。ただし量刑は最高3年で、羊の窃盗と同じなのですが。さらに「親族のもめ事(結婚した以上親族だ、と見なされるようです)」として、事件になることは極めてまれだそうです。ストーカー被害を「単なる男女間のもめ事」として冷ややかに見る日本の警察の態度と通じるところがあるのかもしれません。基本は女性蔑視ですが。
ちなみに、伝統的な誘拐結婚でも、レイプは御法度だそうです。
本書に登場する80代の夫婦は、夫が実家を訪れて妻(になる人)の手を引いて二人で自分の家まで歩いて、の“誘拐”だったそうです。その妻は「今のような暴力的な誘拐結婚は伝統ではありません。単なる流行です」と言います。どうも「伝統」ということばだけが伝えられて、その中身についてはきちんと捉えずに行動に移す若者が多いのかもしれません。
意外と言ったら失礼でしょうが、結婚の結果、幸福に暮らしている夫婦はけっこう多くいるようです。だけど、上に書いたように自殺をした例もあるし、離婚になった例もあります。ちなみに、幸福に暮らしている夫婦の場合でも妻たちは「自分の娘(孫娘)は、誘拐結婚という目には遭わせたくない」と言っています。
驚いたのは「誘拐中の写真」もあること。まさか著者が誘拐に同行したわけではないでしょうから、誘拐する一党が「記念撮影」をした、ということなのでしょうね。