自分の賃金・人事査定は正当に行われていない」
こんな不満を持つビジネスパーソンは多いのではないだろうか。一方で、企業側も同じ職務(仕事内容)なのに高年齢な社員ほど賃金が高いことに課題を感じている。海外のような「同一労働同一賃金」の原則を導入しようという掛け声も強いが、一向に進んでいない。なぜこのような状況になっているのだろうか。
それを解くカギが、日本型雇用システムだ。日本型雇用システムはこれまで、終身雇用や年功序列など「三種の神器」を基に語られることが多かったが、昨今では、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎主席統括研究員が著書『新しい労働社会』で説いた「メンバーシップ型」という切り口が新たな注目を浴びている。それは次のようなものだ。
欧米やアジアなど世界一般の雇用契約は、企業内の労働から「経理業務」や「A支店でのB販売業務」などのように職務を切り出し、その特定の職務の範囲内において労使の関係が成立する。
これに対し、日本の雇用慣行では職務を切り出さずに一括して雇用契約を結ぶ。労働者は企業内のすべての職務に従事する義務を持ち、使用者はそれを要求できる。
労働者はその時々には個々の職務に従事するが、配置転換(職務変更)という使用者命令によって、職務を繰り返し変えることになる。海外は職務を通じた契約であることから「職務(ジョブ)型」、日本は職務という概念が希薄で会社のメンバーになるという地位設定契約に近いことから「メンバーシップ型」と呼ばれる。
以上が日本型雇用システムの根源だ。この基本を押さえると、日本の賃金のナゾもスラスラと解ける。以下に見て行こう。
世界の賃金形態は二分される。日本とそれ以外だ。日本以外の国では、賃金は職務ごとに、その難易度や市場価値などによって決まる。これが世界における同一労働同一賃金の原則だ。基本的に、同じ職務なら、どの年齢の労働者でも、どの企業で働いても賃金は同一。これは世界の雇用契約が職務を限定して結ばれることと軌を一にしている。
これに対し、日本の賃金は職務ごとに決めない。雇用契約で職務を定めていないからだ。
仮に日本で職務ごとの賃金形態(職務給という)を採用すると、職務変更のたびに労働者の賃金は変わることになり、高賃金職務から低賃金職務への配置転換が行いにくくなる。
そのため、日本に定着したのが、職務でなくヒトを基準にした賃金形態だ。具体的には、その人の勤続年数や職務遂行能力を基に賃金を決めるやり方だ。このうち、職務遂行能力を基に決める職能給は1970年代以降、日本の賃金制度の主流となった。
職務遂行能力とは、毎年あげる成果や業績とは別に、その人が職務を果たすうえで持っている潜在能力にスポットを当てる。よく社内で「あの人は仕事ができるね」といった話をするが、そうした曖昧なレベルの能力を含む。その能力を査定によって資格でランク付けし、賃金を決める。
職務遂行能力は基本的に経験(年齢や勤続年数)に比例して伸びる。また、職務遂行能力は蓄積型で落ちにくいため、職能給には昇格スピードの差はあっても降給・降格はない。そのため、職能給も年功賃金の一種になっている。
1990年代に巻き起こった成果主義ブームは、こうした年功賃金の否定が目的だった。
あなたは賃金・人事査定に満足していますか あの働かないオジサンがいまだに高給の理由