日々、思うことをサラサラと。

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沢木さんの本

2006年09月19日 | 映画
沢木耕太郎さんの「無名」。思いがけず夢中で読み耽った。

ノンフィクション作家。これまでに読んだ作品の中からの印象では、確かで吟味された資料の元に構成され、感情移入を抑えた文章に信頼感を覚える。
優れたドキュメントを書く人だが、今ひとつ、繊細な心情が欲しい自分とは馴染みにくいものを感じていた。そんな沢木さんが、身内の亡くなったお父さんを主題にして本を出したことを知ったときはさほど期待していなかった。

そして・・日を重ね文庫本になってから店頭で目にし、「なにげなく」買ってみた。・・・意外にも読んでみたらどんどん惹かれていく。本が何より大好きだった(読書量が凄い!)お父さんの日常の生活の在り様。父と子の触れ合った足跡。
沢木さんの湿気を抑制したような文章は、このようなものにありがちな情に訴えてくるような気配は全くなく、正確にお父さんの気性が伝わるように記されている。

欲というものに一切無縁で、あるがままを受け入れ、ただの一度も怒鳴ったことがなくいつも静かに語る人は無類の本好き。本を読むときは常にスっと正座をして読んでいたという。丁寧に作者の印象に残っている事柄を掬いあげて構築されていく文章を読んでいると、いつの間にかお父さんの振る舞いが大いに気になりだして、そしてお父さんが大好きになっていた。
亡くなる前の入院先・自宅での看病の在り様も、こなれていないけれどこの人なりの誠意のこもった静かな振る舞いで病人を尊重し看ていく。

感動を誘うようなイヤらしい意図など微塵も感じられず、スッキリと立つ文体が心地よい。
この人の文章には、読み終わった後「信頼」が残る。
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