奈良のむし探検 第19弾
5月23日の朝と昼に田んぼの畔で探した虫の写真です。もうだいたい全部を出したのですが、ハエとハチが残ってしまいました。どちらも採集必須の虫たちなので、写真だけだとなかなか分かりません。でも、できる限り調べてみようと思って、朝からうんうんうなりながら調べています。まずはハエ目からです。
最初はアシナガバエの仲間です。この仲間は綺麗なのですが、なかなか大変な仲間です。アシナガバエはとりあえず翅脈を見ます。
以前はマンションの廊下で撮っていたので、うまく撮れていたのですが、野外だと風が吹くので、なかなかうまく撮れません。拡大するとこんなぼやぼやの写真になっています。この写真からなんとか情報を取り出します。写真の明るさを変え、コントラストを増すと翅脈が少しはっきりしてきます。この仲間については、双翅目談話会の機関紙「はなあぶ」に翅脈の写真が載っていることを以前教えてもらいました(田悟敏弘、「関東地方にて採集したアシナガバエ科のの記録」、はなあぶ No. 30-2、1 (2010))。アシナガバエ科に特徴的な翅脈がM1+2脈と呼ばれる脈です。この脈がまっすぐだったり、前方に少し曲がっていたり、ほぼ直角に折れ曲がっていたり、二つに分岐したりと様々です。この写真の個体は前方にほぼ直角に曲り、その後、翅縁に向かってR4+5脈にほぼ平行に走ります。こんな翅脈を持っているのは、アシナガバエ亜科のDolichopus(ナミアシナガバエ属)です。「日本昆虫目録第8巻」によると、この属には4種が載っているのですが、中村剛之、「『日本昆虫目録 第8巻 双翅目』の出版と日本産双翅目相の解明度について」、昆蟲(ニューシリーズ) 19, 22 (2016)によると、アシナガバエ科の種の解明度は10-50%。実際、感覚的にも無数の種類がいるような感じさえします。なお、
この仲間については先日、顕微鏡写真を出しました。この時と同じ種かもしれません。
これもアシナガバエ。
先ほどの種と比べると、M1+2脈が僅かに前縁側に曲がって、R4+5脈とほぼ平行に翅縁側に走っています。M3+4脈が大きく後縁側に曲り、また、m-m脈がかなり翅の基部にあります。こんなところを手掛かりに、田悟氏の翅脈の写真と見比べると、Hercostomus, Gymnoptemus, Chrysotus, Syntormon, Rhaophiumなどの属がよく似ていることが分かります。これについては
以前も検討したことがあります。この時はChrysotusが一番近いとしていたのですが、根拠ははっきりしません。
春の頃からよく見ていた
ヒゲナガヤチバエが今頃もいっぱいいました。
これは
ホソヒメヒラタアブだろうと思います。
問題はそのすぐ横にいたこのハエです。これも翅脈を見てみました。特徴的なのはsc切目とR1脈が翅の前縁に達するところが結構距離が離れていることです。sc切目はSc脈が前縁に達するところなので、これだけ離れているというとSc脈がほぼ直角に前縁に達するミバエ科が思い浮かびます。そこで、ネットで調べたのですが、似たような種に違う名前が当てられていて判断がつきません。そこで、ミバエ科の論文を少し探してみました。
M. Yaran, "Two new records of fruit flies (Diptera: Tephritidae) for the fauna ofAksaray and Mersin provinces", Turkish J. Zool. 39, 1056 (2015).(
ここからダウンロードできます)
この論文に翅のパターンが載っていました。翅脈と翅の模様を比べると、Eisina sonchiという種が似ている感じがしました。これは、日本でも見られていて、
ノゲシケブカミバエという名前が付いています。ネットを見ると、この和名で似た写真を出しているサイトがいくつかありました。たぶん、これかなと思っています。
これはハルジオンにいたニセケバエ科です。写真を見ると分かるように大変小さなハエです。これもピントが合っていなくてどうしようもないのですが、とりあえず、翅脈を見てみました。
何とか読み取ることができます。特徴はRs/R4+5脈が翅の中央くらいまでしか伸びていないこと、M脈の基幹部が短く、その後、M1とM2に分岐した部分が長くなっていることなどが読み取れます。
実は以前、ヒメジョオンにいたニセケバエの翅脈を調べたことがあります。この時の翅脈と比べると、今回のニセケバエの翅脈はよく似ています。この時はニセケバエ亜科のナガサキニセケバエ族まで到達して、そこで止まっていました。「日本昆虫目録第8巻」を見ると、この族にはCoboldiaとSwammerdamellaという2つの属が載っています。Manual of Nearctic Diptera (MND;
ここからダウンロードできます)という本があるのですが、それを見ると、この両者の区別をつけることができます。詳細は省略しますが、この写真の個体はCoboldia属かその近傍だと思われます。この属には有名な害虫であるナガサキニセケバエ Coboldia fuscipesというのがいます。この種については、先ほどのMNDに翅脈のスケッチが載っています。比べてみると、M脈の基幹部が本種の方がやや短いなど、少し気になるところもあるのですが、大まかには大変良く似ています。たぶん、
ナガサキニセケバエか、その近傍だろうと思われます。なお、中村氏によると、ニセケバエ科には5属6種が記録されていて、解明度は20%程度となっています。未記載種が多いのですが、全体でも30種くらいなので、それほど多くはなさそうです。
これも
ホソヒメヒラタアブ。
それから、また、
ヒゲナガヤチバエ。
最後はヨシノアザミに止まっていたアブです。市毛 勝義氏の、「
はなあぶの世界」を見ると、
シマアシブトハナアブ♀がよく似ています。
これでハエ目は終わりです。残りはハチ目。これがまた大変。