ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

ルーム

2019-04-04 22:29:06 | 映画



(これは2018年2月17日の記事です)

ごくたまにですが、言葉を失う、という表現がいちばんぴったりくる映画に出会うことがあります。あまりに酷かった場合とあまりにすばらしかった場合の二つに分かれますが、この映画は後者です。

深く感動し、何をいえばいいかわからない、それこそ言葉を失う、といった状態に陥ってしまう映画です。今回はそれを紹介します。(以下ネタバレです)

17歳で男に誘拐され、7年間も狭い部屋(ルーム)に監禁されているジョイとジャック。映画はこの狭いルームから始まります。
彼女は男に強姦され子どもを生みました。それがジャック。ジャックは成長し、5歳の誕生日を迎えます。

映画の前半はこの狭いルームの中で終始します。息詰まるような過酷な状況の中でも希望を失わず、ささやかな幸せを見つけようとする二人。ジョイはジャックにできる限りのことを教えます。
日曜日になると男(オールド・ニック)がやってきて食料品などを補充していくのですが、ルームには電子キーが設置されていて天窓が一つあるだけ。どうやっても逃げられない。

男は野蛮で暴力的です。なす術もなく監禁生活を送るジョイ。

しかし、映画はこの悲惨な状況を、ジャックという子どもの目を通して語ります。
ジャックは生まれてから一度も外の世界に触れていません。狭いルームとTVだけが彼の世界で、天窓から差し込む光だけが外界のリアルです。

彼にとって、ルームは世界そのものであり、外は宇宙なのです。

この映画がすばらしいのは、ジャックの目を通して世界を見ていること。
そのジャックの感性を守り切ったのが、19歳で誰の援助も受けずにジャックを生み育てたジョイだということ。

これは驚愕に値します。ジョイは本当に見事にジャックを守りきったのです。
一つ間違えば、二人とも男の手にかかって殺されていてもおかしくない、そうした状況はDVを経験した人ならよく知っていると思います。
その中で大切なものを守り通すのがいかに難しいかということも。

一体どのようにしてこの状況を切り抜けられるというのか。
でも、ジョイは決して絶望しない。
なぜなら、ルームの外には彼女を必死で探し、帰りを待っている両親がいるという確信があるからです。

人は、誰かに大切にされているという確信を持つとき、あるいは何としても守らなくてはいけない大切なものがあるとき、絶望してはいられないのです。

ジョイはついに大きな賭けに出ます。
ジャックが死んだと偽装して、絨毯でぐるぐる巻きにしたジャックを男に運びださせます。その前に二人は何度も練習を重ねるのですが、ここも圧巻。
決して甘いだけの母親ではない、サバイバルするからには命がけという覚悟がある。

そして、ジャックのすばらしさ。
5歳にしてこの機転、この知恵、そしてまた彼を保護した女性警官もすばらしい。断片的なジャックの話から推測して、男の家を探り当てるのです。

こうして彼らは救出されるのですが、それが映画の前半一時間。自宅に戻ってから彼らがいかに再生を果たすかは後半にゆだねられます。

無事家に戻ったからといってめでたしめでたしとはならない。
彼らを待っていたのは、過酷なマスコミであり、どうしてもジャックを受け入れることができないジョイの実父でありました。
しかし、二人を暖かく迎えてくれる母親と母親の新しいパートナーもいて、彼らは何とか再生を果たすのですが、この後半も実に見ごたえがあります。

これは、人が深く傷ついたとき、どのように再生を果たすことができるかという物語であり、また、5歳のジャックの目を通して語られる世界のすばらしさ、いとおしさであります。
このジャックを演じた男の子がすばらしい。

そして重要なのは、映画が犯人を咎めだてしない、ということ。
オールド・ニックのしたことは決して許されることではありませんが、物語はそれを重要視しません。彼がどんな人間であれ、大事なのはジョイとジャックがいかに再生を果たせるかということだからです。

それを理解している母親とパートナーも素晴らしい。

最後に二人はルームを再び訪れるのですが、ジャックはこう言います。

「ここ縮んじゃったの?」

外の世界を知ったジャックにとって、そこはどんなに小さくて狭い世界に見えたことでしょう。そして、ジャックは、部屋にあるイスやシンクやクローゼットにそっと触れて、さよなら、と話しかけるのでした。

しかも、さらに驚くべきことは、これが実話に基づいたストーリーであるということ。24年間ものあいだ実の父親に監禁され、7人もの子どもを生んだ女性の話(2008年にオーストリアで起きた事件)が元になっているそうです。

世の中には時々常識では考えられない事件が起きます。
でも、どんな事件であれ、被害者が立ち直るためには、理解してくれる近しい存在が必要だというのは変わらない真実です。人を救えるのはやはり人以外にはないからです。

深く深く胸に刻まれる映画です。
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