ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

津波の霊たち 3.11死と生の物語

2019-03-11 19:02:08 | 映画



これは2018年6月28日の記事です


今日は映画ではなく、最近読んだ本を紹介します。

「津波の霊たち 3.11死と生の物語」
リチャード・ロイド・パリー著 早川書房
"Ghosts of the Tsunami/ Death and Life in Japan's Disaster Zone”

3.11東日本大震災で、石巻市の大川小学校の児童74名が津波にのまれて亡くなった痛ましい事件を記憶している人も多いでしょう。
この本は主に、大川小学校で何が起きたのかを追ったノンフィクションです。

まずは、ノンフィクションでここまで表現できるのかと驚き感心し、惹き込まれてあっという間に読了していました。

私も数年前に大川小学校を訪ねたことがあるので、あそこで起きた悲劇については無関心ではいられません。
特に小学校の校庭から続く裏山、すぐそこに逃げ場があったのに、なぜあれほど多くの小学生が亡くならなくてはいけなかったのか・・

3.11当日、大川小学校で起きたことを著者は克明に追っていきます。
人々はどう動いたのか、その結果どうなったのか。子どもを亡くした親たちのその後の行動はどうだったのか。
そしてまた、大川小学校の話ばかりでなく、津波にあった人たちの霊を鎮めるために除霊をし追悼行脚する金田住職の話も登場します。

著者のリチャード・ロイド・パリーは、イギリスの「ザ・タイムズ」紙のアジア編集局長および東京支局長で、20年以上日本に住んでいるイギリス人です。

外国人だからこそ、しかも日本に20年以上滞在し日本人のことをよく知っている外国人だからこそ描ける、非常事態に際しての日本人の姿や行動、それが実に冷静かつ客観的に、そして俯瞰的に描かれます。

大川小学校で子どもを亡くした親たちは、やがて学校と石巻市を相手に訴訟を起こします。
なぜなら、当日不在だった校長は自己保身に走り、ただ一人の生き残りである遠藤教諭の証言も真実ではなく、やがて彼は行方をくらましてしまうからです。

親たちは言います。
お金が欲しいのではない、あの日、大川小学校で何が起きたのか知りたいのだと。
どんな空だったのか? どんな風が吹いていたのか? どんな雰囲気だったのか? 子どもたちはさむがっていたのか? 家に帰りたがっていたのか? あの子に最後に話しかけた人は? 逃げたとき誰のそばにいたのか? 誰かと手をつないでいたのか?
そこで起きたすべてのことを知りたいのだ、と。

「先生、山さ上がっぺ。
 なんで山に逃げないの?
 ここにいたら、地割れして地面の底に落ちていく。
 俺たちここにいたら死ぬべや」

子どもたちがいくらそう言っても、また、他の親たちが津波が来ることを警告しに来ても、先生たちは彼らを「落ち着く」ようなだめ、ここに留まるよう指示したといいます。

裁判に持ち込むことは日本のムラ社会のなかでは相当の覚悟を必要とします。このことも、著者は日本人以上に理解しています。

最初のうちは互いに励ましあい、協力しあって子どもの遺体を探していた親たちも、やがて、遺体が見つかり葬儀をすませた親と、いつまでたっても子どもの遺体が見つからない親、そして、家族や家をすべて失った人たちと、とりあえず家は大丈夫だった人たちとの間に横たわる齟齬が次第に大きくなっていきます。

その経過を克明に淡々と語っていく筆致は見事としかいいようがありません。
情景描写の美しさも加わり、これはノンフィクションというよりもはや文学作品といってもいいのではないかと思います。

大川小学校で子どもを亡くした親たちの中で、平塚なおみさん、紫桃さよみさんという対照的な二人が何度も登場してきます。

二人とも子どもを大事に育ててきた普通の日本のお母さんたちですが、状況のちょっとした違いから次第に諍いや反目に発展していく様子も、こうした事態に限らずどこでも起こり得ることだと思いました。

鎮魂の行脚を続けてきた金田住職が、大事なのは死を受容することだと著者にいいますが、それに対して著者はこう書いています。

「私としては日本人の受容の精神にはもううんざりだった。過剰なまでの我慢にも飽き飽きしていた・・」
そしてこう続けます。

「そんな日本に今必要なのは、紫桃さん夫妻、只野さん親子、鈴木さん夫妻のような人たち(訴訟を起こした人たち)だ。怒りに満ち、批判的で、決然とした人たち・・闘う人たちだ」

あれから7年という時間が経過し、当時の出来事は風化し始めています。
だからこそ、もう一度当時を振り返り、いつなんどきまた同じ事態が起きるかわからない日本列島に住む者として、様々なことを肝に銘じたいと思いました。

(残念ながら、誤解を招きかねないタイトルと表紙ですが、この本は、幽霊譚じゃない!全然違います!)


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