越川芳明のカフェ・ノマド Cafe Nomad, Yoshiaki Koshikawa

世界と日本のボーダー文化

The Border Culture of the World and Japan

ジョナサン・フランゼン『コレクションズ』(1)

2011年09月15日 | 小説
コミカルなポストモダンの「家族小説」 
 解説 ジョナサン・フランゼン『コレクションズ』
越川芳明

1<小さな戦争>
 
 これは、コミカルな風刺をまぶしたポストモダンの「家族小説」だ。

 ポストモダンというわけは、従来のリアリズム小説とは違って、作者の特権的な立場(全知の立場)を前提にしない書き方で書かれているからだ。

 すなわち、この小説では、比較的短い一番目の章「セント・ジュード」と最後の章「修正」のあいだに、それ自体が中篇小説といってもよい五つの章、「失敗」、「考えれば考えるほど腹がたつ」、「洋上で」、「発電機」、「最後のクリスマス」が挟まれているが、それらの章がひとつの家族を構成する五人の視点人物によって語られている。

 まず、アメリカの心臓地帯、中西部の架空のスモールタウン、セント・ジュードに暮らす老夫婦がいる。

 ミッドランド・パシフィック鉄道の技術部長の職を辞したアルフレッド・ランバートと、世間体を非常に気にする妻イーニッド。

 そして、その老夫婦の三人の子どもたちがいる。

 長男で、いまは東部の都市フィラデルフィアで地元銀行の投資部門の部長になっているゲイリー。

 次男で、若い女子学生とトラブルを起こし東部の大学を解職されたチップ。

 さらにフィラデルフィアの資産家に認められて新たに開店する超一流レストランのシェフを任される末っ子のデニース。

 これらの五人が視点人物となり、彼らと関わりを持つ近隣の人々、恋人、会社の同僚、仕事仲間、そしてもちろん家族の他のメンバーと織りなす悲喜劇を互いの立場から語り起こす。

 それゆえに小説で描かれる世界は、絶対的な真実というよりは、相対的な世界観の寄せ集めにならざるを得ない。

(つづく) 

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