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沢木欣一の一句鑑賞(二)   高橋 透水

2013年12月17日 | 俳句・短歌・評論・俳句誌・俳句の歴史
塩田に百日筋目つけ通し      欣一

 欣一は昭和三十年の夏、能登珠洲市で開かれた小・中・高教師の認定講習会に講師として出席した。終了後、輪島市町野町曾々木の塩田を訪ね、雑貨屋の二階に一泊し、翌日も原始的な上浜式塩田の作業を取材している。これは「俳句」の大野林火編集長から大作の寄稿を依頼されていたためである。
 自解によると、「塩田に砂を撒き汐をかけ烈日にさらすことを繰り返す。汐をかけた砂によく日が当るよう千歯で筋目をつける。重労働で夏百日続く」とある。これは能登の曾々木海岸にある揚浜式塩田のことである。同時に〈塩田夫日焼け極まり青ざめぬ〉がある、これも自解によると「夏の日焼けが黒いのは当り前だが、黒さ極まると青ざめた色になる」とある。他に、〈汐汲むや身妊りの胎まぎれなし〉〈塩焼く火守る老婆を一人遺し〉などなど労働句が多い。
これら「塩田」を語るには欣一らが提唱し推進した社会性俳句運動を避けて通ることができない。沢木は昭和二十九年十一月号『風』の「俳句と社会性」というアンケートに「社会性のある俳句とは、社会主義的イデオロギーを根底に持った生き方、態度、意識、感覚から産まれる俳句を中心に広い範囲、過程の進歩的傾向にある俳句を指す」と言っている。さらに遡ると昭和二十一年五月、「風」の創刊号に掲げた「文芸性の確立」「生きた人間性の回復」、更に「直面する時代生活感情のいつはらぬ表現」という目標にも社会性を目指す欣一の決意が読み取れる。
 西東三鬼は、昭和三十二年度の『俳句年鑑』で「欣一は『能登塩田』によって大爆発した」とし、「時代の正統派はこの人を継ぐであろう」とまで述べている。一方欣一は、「能登塩田」だけで社会性を表現したのではない。社会性俳句とは時事的なことを詠うだけでなく、「自然風土と人間のさまざまな生産労働とに目を注ぐ」ことだ、と言明している。誠に傾聴すべき言葉である。
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