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ケニア沖の孤島、モンタナの雪山、ポートランドの漁港、タンザニアの密林。本書に収録された8つの短編小説は、世界のさまざまな場所を舞台にし、主人公たちも14歳から60過ぎの老人までと、実に多様だ。そして彼らは、めくるめく流転の果てに、ひとりきりで絶望の淵に立たされる。表題作の盲目の貝類学者は、奇跡の人と奉り上げられたあげく、息子を死なせてしまう。「たくさんのチャンス」の少女は、好意を寄せる少年と父親に裏切られて、失望していく。しかしその先で彼らに訪れるのは、ささやかな救いであり、幸福である。
その好例といえるのが、内戦の続くリベリアで人を殺め、アメリカに流れてきた青年を主人公にした「世話係」だろう。母親を亡くし、職場をも追われた青年は、浮浪者となり、やがて自分だけの菜園をひっそりと作り始める。故国と自分との悲惨な現状を、植物の成長とともに少しずつ乗り越えていく姿からは、全編に通じる自然への畏怖と、人生に対する限りない肯定感を見て取ることができる。一見、脈絡なく登場する「クジラの心臓」や「メロンの濡れた果肉」といったイメージたちが、互いに共鳴し、ラストシーンでつながりあうとき、読み手は、著者の力量に改めて感服するに違いない。
アンソニー・ドーアは1973年生まれ。本書は彼の第1短編集である。本国アメリカで高い評価を得たその作品の数々は、詩的で美しい文章、卓抜した表現力、スケールの大きさ、読み手の想像を遥かに凌駕する巧みなストーリー・テリングなど、どれをとっても20代の新人作家の手によるものとは思えないほどの才気を感じさせる。デビュー作にして、豊潤な味わいをたたえた1冊である。(中島正敏)
出版社/著者からの内容紹介
静かで温かい、生きる力に満ちた小説が傍らにある幸福――。
孤島でひとり貝を拾い、静かに暮らす盲目の老貝類学者。だが、迷い込んできた女性の病を偶然貝で治したために、人々が島に押し寄せて……。幻想的とも言える筆致で、自然による癒しと、孤独ではあっても希望と可能性に満ちた人間の生を鮮やかに切り取る珠玉の八篇。いまアメリカで最も期待されている新鋭による極上の短篇集。
内容(「BOOK」データベースより)
ケニア沖の孤島でひとり貝を拾い、静かに暮らす盲目の老貝類学者。だが、迷い込んできた女性の病を偶然貝で癒してしまったために、人々が島に押し寄せて…。死者の甘美な記憶を、生者へと媒介する能力を持つ女性を妻としたハンター。引っ越しした海辺の町で、二度と会うことのない少年に出会った少女…。淡々とした筆致で、美しい自然と、孤独ではあっても希望と可能性を忘れない人間の姿を鮮やかに切り取った「心に沁みいる」全八篇。「ハンターの妻」でO・ヘンリー賞を受賞するなど、各賞を受賞した新鋭によるデビュー短篇集。
内容(「MARC」データベースより)
ケニア沖の孤島でひとり貝を拾い、静かに暮らす盲目の老学者。その静かな日常が突如乱されて…。孤独ではあっても、夢や可能性を秘めた人々を鮮やかに切り取る短編集。O・ヘンリー賞受賞作を含む全8編を収録。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ドーア,アンソニー
1973年、オハイオ州クリーヴランド生まれ。オハイオ州立大学大学院の創作科出身。『アトランティック・マンスリー』、『パリス・レビュー』、『ゾエトロープ』などに作品を発表し、本書に収録された「ハンターの妻」でO・ヘンリー賞を受賞した。デビュー短篇集である『シェル・コレクター』は、数多くの賞に輝き、『ニューヨーク・タイムズ』や『パブリッシャーズ・ウィークリー』による「Notable Book of the Year」(その一年で最も注目すべき作品)にも選ばれた。現在はフェローとしてプリンストン大学に在籍(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
作家・市川拓司が週刊誌で薦めていた。海外のリゾートでプールの周りに並べられた椅子に座ってのんびり読みたいものである。