出版社/著者からの内容紹介
クレーマー保護者の虚言によって、
彼は史上最悪のいじめ教師に仕立てられた。
「早く死ね、自分で死ね!」
2003年6月、全国ではじめて「教師によるいじめ」と認定される
事件が福岡で起こった。問題の小学校教師は、担当児童を自殺
強要や暴力でPTSDによる長期入院に追い込んだとされ、
「殺人教師」とまで報じられた。
だが後に、一連の事実は、児童両親によるでっちあげだった
ことが明らかになる──。
子供は善、教師は悪という単純な二元論的思考に陥り、
550人もの大弁護団を結成した人権派弁護士、保護者
の無理難題を拒否できない学校現場や教育委員会、すぐ
に騒いで教師を悪者にするマスコミ、被害者を救うヒロ
イズムに酔う精神科医、そしてモンスター・ペアレント......。
病める教育現場で偽善者たちが引き起こした、驚愕の冤罪劇!
著者について
福田ますみ(ふくだ・ますみ)
1956年横浜市生まれ。立教大学社会学部卒。専門誌、編
集プロダクション勤務を経て、フリーに。犯罪、ロシア
などをテーマに取材、執筆活動を行なっている。著書に
『スターリン 家族の肖像』(文藝春秋)などがある。
抜粋
序 章
「史上最悪の殺人教師」
火付け役は朝日新聞である。平成15年6月27日の西部本社版に、「小4の母
『曾祖父は米国人』 教諭、直後からいじめ」という大きな見出しが踊った。そ
のショッキングな内容に地元のあらゆるマスコミが後追い取材に走ったが、その
時点ではまだ、単なるローカルニュースに留まっていた。
これを一気に全国区にのし上げたのは、同年10月9日号の「週刊文春」であ
る。「『死に方教えたろうか』と教え子を恫喝した史上最悪の『殺人教師』」。
目を剥くようなタイトルと教師の実名を挙げての報道に全国ネットのワイド
ショーが一斉に飛びつき、連日、報道合戦を繰り広げる騒ぎとなった。
一体、「史上最悪の殺人教師」と名指しされたのはいかなる教師か。教え子
を取り殺す悪鬼のような人物だろうか。実際、彼がしでかしたとされること
は、極悪非道、悪魔にも等しい所業である。
件の男性教諭は、平成15年5月当時、福岡市の公立小学校で教鞭を取ってい
た。
発端は家庭訪問である。彼は、受け持っていた9歳の男児の髪が赤みがかって
いることに目をつけ、応対した母親に、「○○君は純粋ではないんですよね」と
切り出した。そして、男児の曾祖父がアメリカ人(朝日新聞などの第一報では、
「母親の曾祖父が米国人」)であることを聞き出すや、「○○君は血が混じって
いるんですね」と言い、延々とアメリカ批判を展開した。
あまりのことに母親が、「それは差別ですか。学校では差別はいけないと教え
ているのではないですか」と抗議すると、「私も人間ですから」と開き直り、
「建て前上、差別はいけないことになっているが、ほとんどの人間は心の中で
差別意識を持っていますよ」と言った。
そして、あろうことか、「日本は島国で純粋な血だったのに、だんだん外国人
が入り穢れた血が混ざってきた。悲しいことに、今では純粋な日本人はずいぶん
減っている」と、差別意識をむきだしにした"演説"を3時間もまくし立てた。
不幸なことに、別の部屋にいた男児は、教諭がいたダイニングルームの近くを
通りかかり、教諭の発した「穢れた血」という言葉を聞いてしまう。男児は、
「穢れた」という言葉の意味がわからず、翌日、小学校の図書室に行き辞書で調
べた。
その意味を知った男児は子供心に衝撃を受け、母親にしきりと、「僕の血は汚
いと? 皆と同じ赤いのに、何で汚いと?」「顕微鏡で見たらわかると? うつ
らんと?」と聞いてくるようになった。母親は、男児にそう聞かれる度にやりき
れない思いにかられた。
そしてこの家庭訪問の翌日から、男児に対する教諭の、言語に絶する虐待が始
まった。
授業が終わって子供たちが帰り支度をする「帰りの会」の最中、教諭は男児
に近づき「10数える間に片づけろ」と命じた。しかし、10秒で教室の後ろにある
棚からランドセルを取り、机の中の文房具を入れるのはとても無理である。
明らかに嫌がらせだったが、教諭は、男児が10秒以内に片づけられないと、ラ
ンドセルや学習道具をこれ見よがしにゴミ箱に捨てたり、自分が考え出した次の
「5つの刑」の中から1つを男児自身に選ばせて、虐待を加えた。
アンパンマン=両頬を指でつかんで強く引っ張る。あるいは両拳を両頬に思いき
り押しつけ、ぐりぐりと力を込める。
ミッキーマウス=両耳をつかみ、強く引っ張り、体を持ち上げるようにする。
ピノキオ=鼻をつまんで鼻血が出るほど強い力で振り回す。
アイアンクロー=手のひらで顔面を覆い、指先に力を入れて顔面を圧迫し、その
まま突き飛ばす。
グリグリ=両拳でこめかみを強く押さえ、さらにぐりぐり力を込める。
そして、こうした一連の行為を、教諭自身が「10カウント」と呼んでいた。
男児がやむなくピノキオを選ぶと、教諭は男児の鼻を強くつまんでその身体を
力一杯振り回した。そのため男児は鼻から大量の出血をし、洋服を血だらけにし
て帰宅した。ミッキーマウスを選んだ時は、男児の耳をつかんで乱暴に上
に引っ張り上げたため、両耳が無惨に千切れて化膿するほどだった。これらの10
カウントは、帰りの会の時、他の児童全員の前で毎日のように行なわれた。
しかも教諭は、これらの刑を実行する時、ニヤニヤ笑いながら、「穢れた血を
うらめ」などと聞くに耐えない罵言を男児に投げつけていたのである。虐待を免
れようと男児が必死に片づけても、わざとカウントを早くして、時間内に絶対間
に合わないようもくろんでいた。
この凄惨な虐待によって男児は、鼻血や耳の怪我の他にも、口の中が切れた
り、口内炎ができたり、歯が折れる、右太股にひどい打撲傷を負うなど、連日傷
だらけになって帰宅した。不審に思った母親がその都度怪我の理由を問い質した
が、男児ははっきり答えなかった。
それだけではない。教諭は、授業中、男児に向かって執拗に、「外国人の血が
混じっているので血が穢れている」「アメリカ人は頭が悪い。だからお前も頭が
悪い」と暴言を繰り返し、クラス全員でのゲームの最中も、「髪が赤いけん、お
前が鬼になれ」「アメリカ人やけん、鬼」と罵り、男児が鬼になるように仕向け
ていた。
5月末、学校から帰宅した男児のランドセルの中があまりに乱雑なことに驚い
た母親が叱って問いつめたところ、男児は、「僕が10秒で帰りの準備ができん
かったら、先生に痛いことされるから」と泣きながら「10カウント」を告白。
常軌を逸した担任教師の仕打ちに、さすがの母親も最初は半信半疑だったが、
男児の同級生に聞くなどして、このひどい虐待が約2週間にわたり続いていたこ
とを確認する。
意を決した母親は小学校に出向き、在校していた教頭に教諭の暴力行為につい
て抗議し担任の交代を強く求めた。次いで翌々日にも夫婦で校長に面会し、再度
担任の交代を要求したが学校側は回答を留保。代わりに、教諭の授業中に監視役
をつけるという異例の措置を講じる。
ところが教諭は、監視役の教師の目を盗んで、拳で男児の頭を殴るなどの信じ
がたい暴力行為を続けていたことが明らかになり、6月末、学校側は教諭を担任
から外した。さらにその後、教諭が男児に自殺強要まで行なっていたことが判明
する。「血の穢れている人間は生きている価値がない。早く死ね、自分で死ね」
と脅したため、男児は自宅マンションから投身自殺を図ったことさえあったとい
う。
福岡市教育委員会は、調査の結果、教諭が児童に対しいじめと虐待を行なって
いたことを認め、全国初の「教師によるいじめ」を認定、8月22日、教諭に対
し、停職6か月の懲戒処分を言い渡した。しかし、事件はこれで一件落着とはな
らなかった。
男児は、教諭によるひどい虐待の結果、体の震え、嘔吐、腹痛などが止まらな
くなり、9月上旬から小学校を欠席せざるを得なくなった。直後に、非常に重度
のPTSD(外傷後ストレス障害)と診断され、自殺の恐れもあったため、
大学病院の精神科閉鎖病棟に長期入院する事態となる。
ここに至って男児の両親は、PTSDを理由に、教諭と福岡市を相手取って約
1300万円(度重なる拡張申し立てにより、最終的には約5800万円)の損害賠償を
求める民事訴訟を10月8日、福岡地裁に起こした。
訴訟の先頭に立ったのは、元裁判官で、福岡県弁護士会「子どもの権
利委員会」委員長を務める大谷辰雄弁護士。前例のない児童虐待事件に持ち前の
正義感をたぎらせた彼は、手紙やインターネットなどで全国の弁護士に呼びか
け、約550人もの大弁護団を結成。記者会見の席で、「男児にしたことを考えれ
ば教師失格。教職を去るべきだ」と怒りを露にした。
12月5日。マスコミ注視の中で第1回口頭弁論が行なわれた。以後、法廷
の場で、教師による児童虐待という前代未聞の事件の全貌が暴かれ、この「殺人
教師」に正義の鉄槌が下されるはず、だったのである。
ところが裁判は、大方の予想に反して、回を重ねるごとに思いもよらない展開
を辿り、驚愕の事実が次々と明らかになっていった。
凄い事件だ。唖然とした。人生、どこに落とし穴があるか分からない。550人の弁護団は「どこで話し合う」のだろう?
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