久しぶりの、小説になります。
でも、書いたのは、もうずっと前。
2007年の春先。
「ズッコケ・・・」が出て、47ツアーも始まろうか、という頃のものです。
だから、本編の中の年齢設定が、当時のまま、です。
これを書いた頃と、今と、
私の気持ちは、少しも変わっていません。
というより、
ますます、彼に対する思いは強くなる一方のような気さえします。
とりあえずは、読んでいただけますか?
前編です。
続きから、どうぞ。
彼は、心地よい疲労感に包まれて、まどろみの中にいた。
普段、彼自身は、それとは気付いていないが、
張り詰めた空気と緊張に身を置いている彼にとって、
それは、
ほんの束の間のやすらぎに身を委ねたあとの、
至福の時間ですら、あった。
不意に髪を撫でられても身動きできぬほど、
安心しきっている彼を見て、
彼女は、
愛しさが増すようで嬉しくもあり、
だが、その反面、
不安でもあった。
こんなに疲れている彼を見るのは、いつ以来だろう・・・
出会った頃の彼は、
とても、やんちゃな印象のある少年だった。
未来への期待に、目を輝かせていた。
不安など、微塵も感じさせないくらいに、
毎日が楽しかったのだろう。
彼女に対しても、
臆することなく接してくれた。
彼が人見知りだとは、思わせもしないほど、
なつこい笑顔で、
彼の母親ほどに年の違う彼女に、
まるで、
子猫のような甘え方だった。
時折、
どこか警戒心の強そうな表情を見せ、
無謀とも思えるほどに、やんちゃなとんがり方をして、
その将来を危惧させるようなことが、
なかったわけではない。
いつからだろう。
彼から未来への輝きが薄れ、
あんなに真っ直ぐに、他人を見ていた瞳は、
いつしか、
捨てられた子猫のように、
警戒して他人を寄せ付けない、
どこにいても、
どこからでも、
いつでも、
攻撃態勢にいるような、
それでいて、
怯えたような瞳に変わっていった。
それは、
仕事への期待や抱負に隠された、過剰な重圧感を、
彼自身が、背負いきれていないようにも見えた。
いや、実際には、
ただただ真面目に、彼なりに、
背負おうとしていたのだ。
自分とは無関係なところから発せられる、
無神経な言葉の数々や、
いわれなきバッシングに曝されて、
彼の神経は磨り減るどころか、
壊滅状態ですら、あった。
『やんちゃ』では済まされない無茶もした。
今まで、
友人で味方だと思っていた人々ですら、
彼を見放していく。
信じたいのに、
信じられない。
信じ切れない。
自分以外は、誰も彼も、敵になりえた。
全ては、悪循環だった。
疲れている、というなら、
あの時の彼ほど、
見るに忍びない状態だったものはない。
なにもかも、
全てを投げ出してしまいたい、と。
投げ出してしまっても、
おかしくはない、と。
それでも。
彼女の前では。
彼は、極力、変わらない態度をとろうとしていた。
強がって、
虚勢を張って、
言葉では、オトナぶったことを言いながらも、
彼女にだけは心配をかけまいとする姿が、
痛々しくて、
可愛くて、
愛しかった。
彼が望みさえするなら、
全てを捨てさせ、
なにもかもを許して、包み込んで、
その身の内に仕舞い込んでしまいたいほどの、
せつない感情に、
時間もかからず支配されていく自分に気付いて、
彼女は、少なからず慌て、困惑し、
動揺した。
あの時 。
もし、
彼に全てを捨てさせていたら・・・・・・?
もし、
縋り付いて来る彼の手を、振り払っていたら・・・・・・?
もし、
彼のために、全てを犠牲にしていたら・・・・・・?
もし、
彼が、本当に望んでいることに、気付かずにいたら・・・・・・?
いま、ここに、こうして、
彼の寝顔を見ている幸福は、無かったのかもしれない。
幸福・・・?
改めて、自分に問い返す。
これは、幸福なの・・・?
支払った代償は、決して、小さくは無かったのに・・・?
伸びた彼の髪は、
細く、柔らかく、
彼女の指にまとわりつく。
いつまで、こうしていられるの?
彼が、私を見捨てるまで・・・・・・?
必要としなくなる日まで・・・・・・?
年齢差は、如何ともしがたいわよね。
今さら、あの頃には、戻れないし。
ただ、彼を応援しているだけの、普通の・・・・・・
不意に流れ落ちた涙が、
彼の頬を掠めて、シーツに小さな染みを作った。
それはまるで、
ふたりの間にある、消えないしこりのようで。
彼女にとっては、象徴的ですら、あった。
後編へ続く。
でも、書いたのは、もうずっと前。
2007年の春先。
「ズッコケ・・・」が出て、47ツアーも始まろうか、という頃のものです。
だから、本編の中の年齢設定が、当時のまま、です。
これを書いた頃と、今と、
私の気持ちは、少しも変わっていません。
というより、
ますます、彼に対する思いは強くなる一方のような気さえします。
とりあえずは、読んでいただけますか?
前編です。
続きから、どうぞ。
彼は、心地よい疲労感に包まれて、まどろみの中にいた。
普段、彼自身は、それとは気付いていないが、
張り詰めた空気と緊張に身を置いている彼にとって、
それは、
ほんの束の間のやすらぎに身を委ねたあとの、
至福の時間ですら、あった。
不意に髪を撫でられても身動きできぬほど、
安心しきっている彼を見て、
彼女は、
愛しさが増すようで嬉しくもあり、
だが、その反面、
不安でもあった。
こんなに疲れている彼を見るのは、いつ以来だろう・・・
出会った頃の彼は、
とても、やんちゃな印象のある少年だった。
未来への期待に、目を輝かせていた。
不安など、微塵も感じさせないくらいに、
毎日が楽しかったのだろう。
彼女に対しても、
臆することなく接してくれた。
彼が人見知りだとは、思わせもしないほど、
なつこい笑顔で、
彼の母親ほどに年の違う彼女に、
まるで、
子猫のような甘え方だった。
時折、
どこか警戒心の強そうな表情を見せ、
無謀とも思えるほどに、やんちゃなとんがり方をして、
その将来を危惧させるようなことが、
なかったわけではない。
いつからだろう。
彼から未来への輝きが薄れ、
あんなに真っ直ぐに、他人を見ていた瞳は、
いつしか、
捨てられた子猫のように、
警戒して他人を寄せ付けない、
どこにいても、
どこからでも、
いつでも、
攻撃態勢にいるような、
それでいて、
怯えたような瞳に変わっていった。
それは、
仕事への期待や抱負に隠された、過剰な重圧感を、
彼自身が、背負いきれていないようにも見えた。
いや、実際には、
ただただ真面目に、彼なりに、
背負おうとしていたのだ。
自分とは無関係なところから発せられる、
無神経な言葉の数々や、
いわれなきバッシングに曝されて、
彼の神経は磨り減るどころか、
壊滅状態ですら、あった。
『やんちゃ』では済まされない無茶もした。
今まで、
友人で味方だと思っていた人々ですら、
彼を見放していく。
信じたいのに、
信じられない。
信じ切れない。
自分以外は、誰も彼も、敵になりえた。
全ては、悪循環だった。
疲れている、というなら、
あの時の彼ほど、
見るに忍びない状態だったものはない。
なにもかも、
全てを投げ出してしまいたい、と。
投げ出してしまっても、
おかしくはない、と。
それでも。
彼女の前では。
彼は、極力、変わらない態度をとろうとしていた。
強がって、
虚勢を張って、
言葉では、オトナぶったことを言いながらも、
彼女にだけは心配をかけまいとする姿が、
痛々しくて、
可愛くて、
愛しかった。
彼が望みさえするなら、
全てを捨てさせ、
なにもかもを許して、包み込んで、
その身の内に仕舞い込んでしまいたいほどの、
せつない感情に、
時間もかからず支配されていく自分に気付いて、
彼女は、少なからず慌て、困惑し、
動揺した。
あの時
もし、
彼に全てを捨てさせていたら・・・・・・?
もし、
縋り付いて来る彼の手を、振り払っていたら・・・・・・?
もし、
彼のために、全てを犠牲にしていたら・・・・・・?
もし、
彼が、本当に望んでいることに、気付かずにいたら・・・・・・?
いま、ここに、こうして、
彼の寝顔を見ている幸福は、無かったのかもしれない。
改めて、自分に問い返す。
伸びた彼の髪は、
細く、柔らかく、
彼女の指にまとわりつく。
不意に流れ落ちた涙が、
彼の頬を掠めて、シーツに小さな染みを作った。
それはまるで、
ふたりの間にある、消えないしこりのようで。
彼女にとっては、象徴的ですら、あった。
後編へ続く。