すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

STORY.14 pray 前編

2009-01-20 12:41:59 | 小説
久しぶりの、小説になります。

でも、書いたのは、もうずっと前。
2007年の春先。
「ズッコケ・・・」が出て、47ツアーも始まろうか、という頃のものです。

だから、本編の中の年齢設定が、当時のまま、です。

これを書いた頃と、今と、
私の気持ちは、少しも変わっていません。

というより、
ますます、彼に対する思いは強くなる一方のような気さえします。

とりあえずは、読んでいただけますか?

前編です。

続きから、どうぞ。


彼は、心地よい疲労感に包まれて、まどろみの中にいた。

普段、彼自身は、それとは気付いていないが、
張り詰めた空気と緊張に身を置いている彼にとって、

それは、

ほんの束の間のやすらぎに身を委ねたあとの、
至福の時間ですら、あった。





不意に髪を撫でられても身動きできぬほど、
安心しきっている彼を見て、

彼女は、
愛しさが増すようで嬉しくもあり、

だが、その反面、
不安でもあった。


こんなに疲れている彼を見るのは、いつ以来だろう・・・


出会った頃の彼は、
とても、やんちゃな印象のある少年だった。

未来への期待に、目を輝かせていた。

不安など、微塵も感じさせないくらいに、
毎日が楽しかったのだろう。

彼女に対しても、
臆することなく接してくれた。

彼が人見知りだとは、思わせもしないほど、
なつこい笑顔で、

彼の母親ほどに年の違う彼女に、
まるで、
子猫のような甘え方だった。

時折、
どこか警戒心の強そうな表情を見せ、

無謀とも思えるほどに、やんちゃなとんがり方をして、

その将来を危惧させるようなことが、
なかったわけではない。


いつからだろう。


彼から未来への輝きが薄れ、

あんなに真っ直ぐに、他人を見ていた瞳は、
いつしか、

捨てられた子猫のように、

警戒して他人を寄せ付けない、
どこにいても、
どこからでも、
いつでも、
攻撃態勢にいるような、

それでいて、

怯えたような瞳に変わっていった。


それは、
仕事への期待や抱負に隠された、過剰な重圧感を、
彼自身が、背負いきれていないようにも見えた。

いや、実際には、
ただただ真面目に、彼なりに、
背負おうとしていたのだ。

自分とは無関係なところから発せられる、
無神経な言葉の数々や、
いわれなきバッシングに曝されて、

彼の神経は磨り減るどころか、
壊滅状態ですら、あった。

『やんちゃ』では済まされない無茶もした。

今まで、
友人で味方だと思っていた人々ですら、
彼を見放していく。

信じたいのに、

信じられない。

信じ切れない。

自分以外は、誰も彼も、敵になりえた。


全ては、悪循環だった。


疲れている、というなら、
あの時の彼ほど、
見るに忍びない状態だったものはない。

なにもかも、
全てを投げ出してしまいたい、と。

投げ出してしまっても、
おかしくはない、と。

それでも。

彼女の前では。

彼は、極力、変わらない態度をとろうとしていた。

強がって、
虚勢を張って、
言葉では、オトナぶったことを言いながらも、

彼女にだけは心配をかけまいとする姿が、

痛々しくて、
可愛くて、

愛しかった。


彼が望みさえするなら、


全てを捨てさせ、
なにもかもを許して、包み込んで、

その身の内に仕舞い込んでしまいたいほどの、

せつない感情に、

時間もかからず支配されていく自分に気付いて、

彼女は、少なからず慌て、困惑し、
動揺した。


あの時     


もし、
彼に全てを捨てさせていたら・・・・・・?

もし、
縋り付いて来る彼の手を、振り払っていたら・・・・・・?

もし、
彼のために、全てを犠牲にしていたら・・・・・・?

もし、
彼が、本当に望んでいることに、気付かずにいたら・・・・・・?


いま、ここに、こうして、

彼の寝顔を見ている幸福は、無かったのかもしれない。



      幸福・・・?



改めて、自分に問い返す。




      これは、幸福なの・・・?

      支払った代償は、決して、小さくは無かったのに・・・?



伸びた彼の髪は、
細く、柔らかく、
彼女の指にまとわりつく。


      いつまで、こうしていられるの?

      彼が、私を見捨てるまで・・・・・・?

      必要としなくなる日まで・・・・・・?

      年齢差は、如何ともしがたいわよね。

      今さら、あの頃には、戻れないし。

      ただ、彼を応援しているだけの、普通の・・・・・・




不意に流れ落ちた涙が、
彼の頬を掠めて、シーツに小さな染みを作った。

それはまるで、
ふたりの間にある、消えないしこりのようで。

彼女にとっては、象徴的ですら、あった。





後編へ続く。