ベリャーエフ他 深見 弾訳(創元SF文庫)
《内容》
長い伝統を誇るソ連SFを革命前ロシア時代と、その後、第二次世界大戦までに区分し、年代順に編んだアンソロジー。ソビエト編。ソ連のヴェルヌと呼ばれ、ツィオルコフスキーと共に高く評価されている、ベリャーエフの奇譚「髑髏蛾」、スターリン時代に文壇から葬りさられたブルガーコフの、いまだに本国では日の目を見ない作品「運命の卵」、アレクセイ・トルストイによる「五人同盟」など全五編を収録。巻末の訳者による詳細な解説「初期のソビエトSF」は上巻巻末解説と共にファン必読。ソ連SF入門の書
《収録作品》
五人同盟(アレクセイ・トルストイ)/運命の卵(ミハイル・ブルガーコフ)/髑髏蛾(アレクサンドル・ベリャーエフ)/危険な発明(エ・ゼリコーヴィチ)/不死身人間(ゲ・グレブネフ)/初期のソビエトSF-革命後から第二次世界大戦まで-(深見弾)
《この一文》
”「攻撃の構想はこうだ。未曾有の堪えがたい恐怖で世界をたたきのめすのだ……」
テーブルに坐っていた者のうち四人はふたたび葉巻を口から離したが、今度は笑わなかった。
--「五人同盟」より ”
”「きみは、ぼくの気持もわかるが、あとでぼくがきみやエグナスのことを理解するようになると言ったね……どうやらぼくはきみたちを理解したらしい……全世界の自由と文化の運命が決せられる時代にぼくたちは生きているということがわかったよ。」
--「不死身人間」より ”
上下巻なのに、どうして下巻から読むのか--。いいんですよ、アンソロジーですから。それに私はどうしてもアレクセイ・トルストイの「五人同盟」が読みたかったのです!
というわけで、上下巻揃いで購入した『ロシア・ソビエトSF傑作集』ですが、とりあえず下巻の品揃えはほぼ完璧でした。なにこれ、すげー面白いんですけど。
お目当ての「五人同盟」は期待を裏切らない面白さです。前回『怪奇小説傑作集(ドイツ・ロシア編)』に収められていた「カリオストロ」があまりに面白かったので、この「五人同盟」も読みたくなったのですが、こちらは魔術を扱っていてロマンス的要素の強かった「カリオストロ」とはまた違った味わいで、いかにもSFでしかも社会派、スケールも予想以上にでかくてびっくりしました。わー、面白いー。視覚的なインパクトの強さは、前作と同様とても強烈です。うん、うん、いいですよ。大昔に『技師ガーリン』という作品も邦訳されているらしいです。読みたいよう。なんとかならないでしょうか。
ブルガーコフはまたしても「運命の卵」が収録されていたのは無念。いえ、もちろんとても面白いんですけど、これはもう別の本でも持ってるから、他のが読みたいよう。『犬の心臓』とか。古書ではほとんど出回ってないようで、このあいだ見かけたのには、単行本なのに驚きの1万円超。……さすがに無理です。とりあえず図書館で借りるか。
ベリャーエフの「髑髏蛾」は虫だらけで、虫が苦手な私には地獄のような物語(特に前半)でしたが、なんだかとても面白かった。アマゾンに迷いこんでしまった学者の末路とは…。ロビンソン・クルーソーのようですが(実は私はまだ読んだことがないけど)、結末はわりとダークな感じ。この人は割と有名で、私でも知ってるくらいですが、まだほとんど読んだことがなかったので、他のも読んでみようっと。
エ・ゼリコーヴィチという人は経歴不詳らしい。この「危険な発明」は、お話の中でさらにお話が語られるという構造になっています。ある男の子が従兄にお話をねだります。それを友達の少年たちも一緒になって聞く。今回は「ほこり」をテーマにした物語を作ってくれと少年たちはせがむのでした--。なんて無茶な…。でも従兄は「はらはらして、面白くて、真面目で、空想的で、科学的で、おかしくって、しかも本当の話」を作ってくるのでした。この物語がかなり面白い。私はとっても気に入りました。「ほこり」って重要だったんですねー、しみじみ。
最後のゲ・グレブネフ「不死身人間」は、タイトルはちょっと笑ってしまいますが、内容はかなり真剣。全体的なノリとしては、こんにちではよく見かけるような超能力ものSF的な描写(謎の器械《エマスフェラ》の作用によって、主人公に近づこうとする人間がふっとばされたり、弾丸が跳ね返ったりとか。まんがっぽい)が満載ですが、書かれたのが1938年であることを考えると、かなり先取りしてますねー。すごい。ごく短い作品ではありますが、激動の時代を生きる人間の苦悩や、科学技術が進んでいくことを渇望しながらも、それが同時に悪用されうる不安も引き起こしていたりする状況をうまく描いています。面白かった。この作者も経歴がよくわからないらしいのが残念。
さあて、上巻のほうもよだれの出そうな作品ばかりです。うふふ。読むぞー!