The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

『極夜の灰』創元推理文庫 2024/8/22

2024-10-18 | ブックレヴュー&情報
『極夜の灰』

サイモン・モックラー(著)、富田ひろみ(翻訳)

以前『読む予定のミステリ』で取り上げた作品ですが、久々のレヴューです。

念のため内容概略をもう一度ご紹介しておきます。

【内容概略】
≪北極圏の米陸軍極秘基地。
原因不明の火災。不可解な遺体。
真相の「その先」に、また驚く!
意外性抜群の極上ミステリ!

1967年末。ある火災の調査のため、精神科医のジャックは、顔と両手に重度の火傷を負い、記
憶を失ったコナーという男と向かいあっていた。北極圏にある極秘基地の発電室で出火し、隊
員2名が死亡。彼は唯一の生存者だという。火災現場の遺体は、一方は人間の形を残していたが、
もう一方は灰と骨と歯の塊だった。なぜ遺体の状態に差が出たのか? 謎と陰謀が渦巻くミス
テリ長編!≫

事件の舞台は1967年の12月、北極圏グリーンランドの米軍秘密基地。
撤退が決まっていた基地で2人の焼死体と(うち1人は原型をとどめない灰の状態)、そしてもう
1人は重度の火傷を負いながら救出された。
焼死した2人の状態の違いの原因は何なのか、救出された1人は何を見、何を語るのか。

救出され重症の火傷の治療のため入院しているコナーにヒアリングをして何が起こったのか調
査するのがCIAの委託を受けた精神科医のジャック。

コナーと会いヒアリングを重ねる毎に不可解な状況が浮き出てくる。
秘密基地に纏わる秘密、又そこで働いていた他のメンバーの行動等が次々垣間見える毎にます
ます謎めいてくる。
と同時に、ジャックの周辺も何やら危険な雰囲気が次々を起こり、怪しげな人物たちがうろつ
き始める。

ワシントンとニューヨークを往復しながら(プロペラ機で)真相を追うジャックにも危険は迫
り、背後にただならぬものが潜んでいるのを感じさせられる。

1960年代という当時の社会情勢を反映し、米ソ冷戦の渦、ベトナム戦争の後遺症等を感じさせ
ながら、単なるスパイ小説ではなく キャラクターの性格、またジャックの視点からの描写も
丁寧に描かれている。

ジャック自身が抱える苦悩(日本人の妻を交通事故で失い、自分自身もその時の火傷のために
ひどい後遺症をもっている)によるところもあり、コナーに対して特別な思い入れもあるヒア
リングだったが、次第に状況が変化していく過程でハラハラの状況が加速していく。

最終章ではジャック自ら遺棄された極夜のグリーンランド米軍基地に乗り込み事実を調査する
事になる。

単なるスパイ小説ではなく、それぞれのキャラクターの物語であり、嫌味なく描かれているキャ
ラクター達の描き方が良いと感じました。
主人公と言えるジャックは勿論なのですが、特にCIAのドライバー(兼ボディーガード?)が良
い味を出していて なかなか気になる、そして気に入ったキャラクターでした。

殆どが男性という登場人物のなかで、コナーの婚約者の行動にはちょっど感動さえ覚えます。

二転三転の果てにたどり着くクライマックスは見事で、事件の真相、犯人の描き方には、あち
こちに伏線があったことに気づくことになります。

初読みの作家作品ですが、カバーも含め、何となく地味な感じのミステリかと思いきや、久々
のページターナー、一気読みの作品。

納得の気に入った作品だと感じました。