田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

魔王降臨4  麻屋与志夫

2010-04-05 22:20:46 | Weblog
part12 魔王降臨4 栃木芙蓉高校文芸部(小説)


59

「お帰り」
玉藻の声だ。
囲炉裏の側には『北秋田』の一升瓶が二本立っていた。
一升あけて、さらに一升。
といったようすだった。
ともかくGと二人で寝ずに龍之介たちの帰りをまっていてくれたのだ。
「連絡もらったからだいたいの状況はわかっている。
でもな、どうしてこうもしつこく襲ってくる? 
なにかはっきりとした意図があるわけだとかんがえていた」
「文子さん、朝ご飯まだでしょう。
みんなで食事しながら……かんがえましょう」
「ルーマニアの吸血鬼がこの地方を征服しようとしている」
「わたしたちだって、ユダヤ十支族の末裔。東の国には憧れがあった」
「でも、玉藻さん、この攻め方は異状よ。
魔王まで召喚してせめこんできているの」
「魔王がルーマニアの吸血鬼を従えて侵攻してきた。
ともおもえるよ」
「龍、のいうとおりかもしれない。
だがおれは、ずっと昔のことを思い出していた。
おれがお九さんと知り合うきっかけとなったあの事件のことをな……」
Gが下野の連中にからまれたこと。
そのあとの野球試合のあとで大勢で、
乱闘になった経緯についてはみんなが知っている。
「あのころから、
下野と芙蓉、宇都宮と栃木の間にはなにか因縁があったのだ」
「わたしも……それをさぐってみる」
「文子さん、あまりむりしないでね。
危なくなったら呼んでね。
どこへでもかけつけるから。
監察官のためならここからでてもいいのでししょう」
「まだあの約束を守る気なの。
もういいって。
どこへでも自由においでなさいな」


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魔王降臨3 麻屋与志夫

2010-04-01 06:11:46 | Weblog
part12 魔王降臨3 栃木芙蓉高校文芸部(小説) 


58

ぼくを助けるために。
ただそのことのために、
文子は秘密を明かしてしまった。
危険を冒した。

龍之介の頭の中には魔王、
ベルゼブブへの恐れ。
文子を窮地に落してしまったのではないかという思い。
……が混沌と渦巻いていた。

「龍、しっかりして」
「ぼくのために正体を明かしてしまつた。ゴメン」
「ウソで通せる相手じゃないから。
いいのよ。
それよりわたしのこと怖くなった」

朗々と龍之介は応えた。
「われはいとはじ恋はますとも」
文子がうれしそうに上の句を朗唱する。
「百歳(ももとせに)に老い舌出でてよよむとも……。
さすが文芸部にはいるだけのことはあるのね。
万葉集。大伴家持よね。
でもわたしは百年なんて単位で計れる存在じゃないのよ。
歳を重ねるなんてことを超越した女なの」
「文子とこうして話しているとすごく安らかな気持ちになる」
「うれしいわ、怖くない」
「ぜんぜん」
ふたりは、石原病院の玄関をでた。
長かった一夜があけた。
黎明の空にむかって龍之介は右手をあげた。
「ぼくは永遠に文子を愛することを誓います」

彼女の応えは唇への熱いキスだった。

「わたしは一族の裏切り者。
神に一族の吸血行為を報告した裏切り者。
愛しているなんていわれたことはなかった」

……なにも悪いことをしたとは思わない。
いけないことをした。
わたしは裏切り者だとは思わない。
でもね、孤独だった。
じぶんひとりだけで神の召喚にしたがって、
どの時代にでも跳べる。
でもどの時代でも愛する人はみつからなかった。

「清盛ちゃんとつきあいがあった。
あのジョークは面白かった」
「ネタバレしてた? 
あれって男を近づかせないためのジョークだったの」

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