天ぷらが食べたい。
特に目的地は決まっていない、ただ何となく車を走らせながら義男はそう思った。
よし、本日の昼ご飯は天ぷら定食と決めた。
どこの天ぷらを食べるのか…。
それが問題だ。
そうと決まれば一人作戦会議を開くために義男はコンビニの駐車場に車を止めた。
そしてアイスコーヒーLサイズを店内で買い求め、運転席に座る。
おいしい天ぷら屋さんをスマホで探す。
気になる店が画面に表示された。
「てんぷら北野」本日15分間限定、寡黙な店主の気まぐれ天ぷら御前。
15分間?開始時間はもうすぐ。
店は今いる場所の近所。
5分後、車を「てんぷら北野」につけた。
外観は、一戸建ての民家。
普通の民家なのだが、たしかに看板がかかっていて、場所は間違い無いらしい。
入りずらい。非常に入りずらい。
しかし、きまぐれ御前の開始時間はあと2分後だ。迷っている暇は無い。
一枚扉を引いて開ける。
靴箱のある普通の玄関。
一段あがってフローリングの廊下が見える。
廊下の奥のガラス戸に小さな陰が見えて、そろりと引き戸が開く。
その隙間からのぞき込む4歳くらいの女の子と目が合う。
「こ、こんにちは。あの天ぷらを食べに来たんだけど大丈夫ですか?」
思わず敬語で聞いてしまった。
「あ、お客さんですね。いらっしゃーい」
そう言うと、真っ赤なスカートを履いたおかっぱ頭の女の子がトテテテと飛び出してきた。
「ドーゾ、ドーゾ」
女の子にうながされるまま靴を脱ぎ廊下に上がった。
廊下の奥はキッチンになっていた。
対面式の調理場には割烹着にサンダーバード式の帽子をかぶった、おとうさん、いや、板さんがいた。
「いらっしゃい…」
節目がちの寡黙な板さんという出で立ちの男がそこにはいた。
人物自体は堂に入っているが、状況は完全におかしい。
なにせ、ここはふつうの民家のキッチン。
座らされたのは、おそらく家族が食事をするであろうテーブルだ。
新聞もテレビのリモコンもテーブルの上に置いてある。
おずおずと言う。
「あの…寡黙な店主のきまぐれてんぷら御前をお願いします」
「はい…、かしこまりました」
「お客さん、どちらからいらしましたの?」
テーブルの下から手だけが出てきて水を置いてくれた。
さきほどの女の子だ。
「ああ、えっと、近所なんだよ」
「そうなんですね」
そう言うと女の子はテーブルに四脚あるイスの一つに腰掛けると、紙をテーブルに広げ、クレヨンでお絵かきを始めた。
「どうじょ、お気にせずごゆっくり」
対面キッチンでは、ちまきのような太さの箸を駆使して寡黙な店主が天ぷらを揚げていた。
ごはんと味噌汁が運ばれ、付け合わせである、大根の漬け物の千切り、ゆず大根、塩、カレー塩、一味等の調味料も運ばれた。
エビ三尾、イカ、なす、ピーマン、たまねぎ。
揚がった順で一品ずつ店主が運んでくれた。
あつあつの揚げたてはどれも格別で、衣はさくさくとし、身はぷりぷりで非常に贅沢なひとときを味わった。
満足して店を出た。
追いかけるように女の子も外に飛び出してきた。
「どうしたの?」
「うん、看板をはずすの」
女の子は「てんぷら北野」の看板をはずした。
案の定、下から「北野」と書かれた表札が現れた。
「15分の間だけ、おうちがてんぷら屋さんになるの。おじちゃん、また来てね」
そういうと女の子は元気いっぱい手を振りながら家の中に消えていった。
まさに正真正銘の気まぐれ店主だった。
特に目的地は決まっていない、ただ何となく車を走らせながら義男はそう思った。
よし、本日の昼ご飯は天ぷら定食と決めた。
どこの天ぷらを食べるのか…。
それが問題だ。
そうと決まれば一人作戦会議を開くために義男はコンビニの駐車場に車を止めた。
そしてアイスコーヒーLサイズを店内で買い求め、運転席に座る。
おいしい天ぷら屋さんをスマホで探す。
気になる店が画面に表示された。
「てんぷら北野」本日15分間限定、寡黙な店主の気まぐれ天ぷら御前。
15分間?開始時間はもうすぐ。
店は今いる場所の近所。
5分後、車を「てんぷら北野」につけた。
外観は、一戸建ての民家。
普通の民家なのだが、たしかに看板がかかっていて、場所は間違い無いらしい。
入りずらい。非常に入りずらい。
しかし、きまぐれ御前の開始時間はあと2分後だ。迷っている暇は無い。
一枚扉を引いて開ける。
靴箱のある普通の玄関。
一段あがってフローリングの廊下が見える。
廊下の奥のガラス戸に小さな陰が見えて、そろりと引き戸が開く。
その隙間からのぞき込む4歳くらいの女の子と目が合う。
「こ、こんにちは。あの天ぷらを食べに来たんだけど大丈夫ですか?」
思わず敬語で聞いてしまった。
「あ、お客さんですね。いらっしゃーい」
そう言うと、真っ赤なスカートを履いたおかっぱ頭の女の子がトテテテと飛び出してきた。
「ドーゾ、ドーゾ」
女の子にうながされるまま靴を脱ぎ廊下に上がった。
廊下の奥はキッチンになっていた。
対面式の調理場には割烹着にサンダーバード式の帽子をかぶった、おとうさん、いや、板さんがいた。
「いらっしゃい…」
節目がちの寡黙な板さんという出で立ちの男がそこにはいた。
人物自体は堂に入っているが、状況は完全におかしい。
なにせ、ここはふつうの民家のキッチン。
座らされたのは、おそらく家族が食事をするであろうテーブルだ。
新聞もテレビのリモコンもテーブルの上に置いてある。
おずおずと言う。
「あの…寡黙な店主のきまぐれてんぷら御前をお願いします」
「はい…、かしこまりました」
「お客さん、どちらからいらしましたの?」
テーブルの下から手だけが出てきて水を置いてくれた。
さきほどの女の子だ。
「ああ、えっと、近所なんだよ」
「そうなんですね」
そう言うと女の子はテーブルに四脚あるイスの一つに腰掛けると、紙をテーブルに広げ、クレヨンでお絵かきを始めた。
「どうじょ、お気にせずごゆっくり」
対面キッチンでは、ちまきのような太さの箸を駆使して寡黙な店主が天ぷらを揚げていた。
ごはんと味噌汁が運ばれ、付け合わせである、大根の漬け物の千切り、ゆず大根、塩、カレー塩、一味等の調味料も運ばれた。
エビ三尾、イカ、なす、ピーマン、たまねぎ。
揚がった順で一品ずつ店主が運んでくれた。
あつあつの揚げたてはどれも格別で、衣はさくさくとし、身はぷりぷりで非常に贅沢なひとときを味わった。
満足して店を出た。
追いかけるように女の子も外に飛び出してきた。
「どうしたの?」
「うん、看板をはずすの」
女の子は「てんぷら北野」の看板をはずした。
案の定、下から「北野」と書かれた表札が現れた。
「15分の間だけ、おうちがてんぷら屋さんになるの。おじちゃん、また来てね」
そういうと女の子は元気いっぱい手を振りながら家の中に消えていった。
まさに正真正銘の気まぐれ店主だった。