英一のアパートはオンボロ木造モルタル2階立て。
その建物の2階一番奥が英一の部屋。
廊下はコンクリ打ちっ放し。
職人がコンクリートをコテで平らにしたであろう施工当時の鱗上の模様が薄暗い廊下に見て取れる。
ベニヤ製のドア。
郵便受けが直付けされている。
通常であれば部屋内部には投函された郵便物を受ける器がついているものだが、それがない。
そうすると郵便物はそのまま靴の上にどさどさと落ちる。
ベニヤのドアに開いた、ただの穴なので外から郵便受けの扉を押すと部屋の中は丸見えになる仕様だ。
夜中あまり騒いでいると大家さんが手を差し込んで英一を注意する。
室内から見ると手の平がバタバタと暴れ、その隙間から大家さんの目がきらめく。
もはやホラーだ。
同級生の間では大家の恐怖として恐れられていた。
大家さんはおばちゃんの一人暮らし。
2階の階段の一番手前に部屋に住んでいる。
想像だが、まことしやかに本当の大家の愛人であろうという噂だった。
大家さんは「ぴーちゃん」という名前のインコを飼っていた。
ある夜の出来事。
野良猫を英一の部屋に連れこんだ同級生がいた。
バタバタバタ!
猫が英一の部屋で暴れている状況で大家の手が侵入した。
「えいいちさーん」
慌てて猫を押入に押し込み、玄関のドアを開けた。
「はい」
薄紫色のネグリジェをまとい、頭にヘヤカーラーを5、6個付けた状態の大家がそこにいた。
「えいいちさん、猫いません?」
ギクリとしたが英一は「し、知りませんよ」ととぼけた。
「ぴーちゃんが騒ぐのよ…」
と完全に疑惑の視線を室内にくれながら大家は自室に引き上げていった。
恐ろしい感度のセンサーをもった大家であるとますます伝説を深めた夜になった。
英一が今、取り組んでいるゲームは「ケイン&リンチ2」
落ち武者スタイルにはげ上がった主人公を操る。
ゴッド・オブ・ウォーの全身白色、白虎社スタイルも主人公として抵抗があるが、こいつも少し抵抗がある。
ダメージは攻撃を受けないと回復するタイプでありがたい。
しかし集中的に連続攻撃を受けるとコロンと簡単に死んでしまう。
武器はショットガンが最強。
使える武器は他の三人称視点のゲームではアサルトライフル、サブマシンガンで戦う場合が多いが(敵が倒れやすいので)このゲームは、なんだかマシンガンの弾が数発当たっても敵が倒れない。
ショットガンのチューブマガジンの数発で確実に倒した方が吉とみた。
ショットガンを手放さない。
健吾がいま取り組んでいるカメラは「オリンパスペンFT」
24枚撮りフィルムで48枚撮った。
ハーフサイズカメラの場合半分の面積しか1枚に使わない。
なので2倍枚数が撮影出来るわけだが、フィルム現像が普通に出来るのか分からない。
しれっと現像をカメラ屋さんに出してみた。
普通に現像された。
そしてちゃんと撮れていた。
さすがカリスマ米谷氏が設計したカメラ。
感動した。
頑強万歳。
その建物の2階一番奥が英一の部屋。
廊下はコンクリ打ちっ放し。
職人がコンクリートをコテで平らにしたであろう施工当時の鱗上の模様が薄暗い廊下に見て取れる。
ベニヤ製のドア。
郵便受けが直付けされている。
通常であれば部屋内部には投函された郵便物を受ける器がついているものだが、それがない。
そうすると郵便物はそのまま靴の上にどさどさと落ちる。
ベニヤのドアに開いた、ただの穴なので外から郵便受けの扉を押すと部屋の中は丸見えになる仕様だ。
夜中あまり騒いでいると大家さんが手を差し込んで英一を注意する。
室内から見ると手の平がバタバタと暴れ、その隙間から大家さんの目がきらめく。
もはやホラーだ。
同級生の間では大家の恐怖として恐れられていた。
大家さんはおばちゃんの一人暮らし。
2階の階段の一番手前に部屋に住んでいる。
想像だが、まことしやかに本当の大家の愛人であろうという噂だった。
大家さんは「ぴーちゃん」という名前のインコを飼っていた。
ある夜の出来事。
野良猫を英一の部屋に連れこんだ同級生がいた。
バタバタバタ!
猫が英一の部屋で暴れている状況で大家の手が侵入した。
「えいいちさーん」
慌てて猫を押入に押し込み、玄関のドアを開けた。
「はい」
薄紫色のネグリジェをまとい、頭にヘヤカーラーを5、6個付けた状態の大家がそこにいた。
「えいいちさん、猫いません?」
ギクリとしたが英一は「し、知りませんよ」ととぼけた。
「ぴーちゃんが騒ぐのよ…」
と完全に疑惑の視線を室内にくれながら大家は自室に引き上げていった。
恐ろしい感度のセンサーをもった大家であるとますます伝説を深めた夜になった。
英一が今、取り組んでいるゲームは「ケイン&リンチ2」
落ち武者スタイルにはげ上がった主人公を操る。
ゴッド・オブ・ウォーの全身白色、白虎社スタイルも主人公として抵抗があるが、こいつも少し抵抗がある。
ダメージは攻撃を受けないと回復するタイプでありがたい。
しかし集中的に連続攻撃を受けるとコロンと簡単に死んでしまう。
武器はショットガンが最強。
使える武器は他の三人称視点のゲームではアサルトライフル、サブマシンガンで戦う場合が多いが(敵が倒れやすいので)このゲームは、なんだかマシンガンの弾が数発当たっても敵が倒れない。
ショットガンのチューブマガジンの数発で確実に倒した方が吉とみた。
ショットガンを手放さない。
健吾がいま取り組んでいるカメラは「オリンパスペンFT」
24枚撮りフィルムで48枚撮った。
ハーフサイズカメラの場合半分の面積しか1枚に使わない。
なので2倍枚数が撮影出来るわけだが、フィルム現像が普通に出来るのか分からない。
しれっと現像をカメラ屋さんに出してみた。
普通に現像された。
そしてちゃんと撮れていた。
さすがカリスマ米谷氏が設計したカメラ。
感動した。
頑強万歳。
私の寝ている頭のすぐ近くにハードディスクレコーダーがある。
深夜、このレコーダーの電源がひとりでに入っていることがある。
ちょっとしたパイロットランプの光でも頭上の暗闇で点灯すると驚くほど輝く。
説明書を熟読してもよくわからない。
生活パターンを学習して自動的に電源をON・OFFする機能もあるが、その設定は切った。
まあ、使えているので細かいことは気にしないようにした。
そんなこともあるさ。
若かかりし頃は自分の思うとおりに事が運ばない場合、頭に血が上り、怒りまくっていた。
でも、初老に片足をつっこむ年代になるともう細かいことは気にしなくなってきた。
次の日の朝、妻のケイコが私のために焼いてくれたトーストを皿に乗せながら言った。
「私のスマホ、寝ている間に勝手に電源が入るの。どういう事なんかね」
新聞を視界のはしに入れたまま生返事をする。
「うん」
「ちょっと聞いてる。この前買ったばかりなのに、これが初期不良だったらショック。また窓口に行っても1時間以上待たないとカウンターのお姉さんと話もできないのよ。いやになっちゃう」
(レコーダーに電源が入る、スマホにも電源が入る、こりゃおもしろい)
私は新聞8割、妻の話1割、残りの思考の隙間で一人うけていた。
ある日、しげしげとハードディスクの機械を観察していた。
天板上面右隅にはディスク開閉のボタンがある。
このボタンは知っている。
ディスクの開閉の時に使うからだ。
おや…
私の視線は釘付けになった。
天板上面左隅にスイッチがあったのだ。
この機械はおしゃれ気取りなのか、外見は何の出っ張りもないぬらりと光る一見ただの箱だ。
ボタンの存在もわかりにくい。
よく見るとボタンに説明が書かれている。
この字もまた小さい。
私は顔を近づけて、やっと読むことが出来た。
「電源」
ああ、これはメインスイッチだ。
いつも電源ONはリモコンを使う。
本体ボタンを使って電源をONにしたことは、これまで無かった。
私は何故電源が勝手に入るのか分かった。
電源が勝手に入る謎、それは…
私が寝ながらこのボタンを押している。
寝相の悪い私は片手を飛び出させてたまま寝返りを打つ癖がある。
これか…
では妻のスマホの電源が勝手に入るのは何故か…
私はその夜、妻の布団、妻の位置、スマホの位置を見た。
妻は翌日の着替えを頭の上に用意して眠る。
畳まれた服の上に電源が着られたスマホが置かれている。
深夜、私はローリング寝相によりハードディスクに電源が入ったのを自覚した。
寝ぼけ眼で主電源のパイロットランプを眺めた。
推理が正しかった事に少し満足感を覚えた。
ふと妻を見た。
夫婦はやっぱり似るのだな。
妻が片手を頭上にのばしながらごろごろと寝返りを繰り返す様を。
そしてミラクルも見た。
ちょうど、
ちょうどスマホの電源ボタンの上で寝返りの回転が逆になる様を。
人差し指はしっかりと確実に電源ボタンを長押し、電源が入った後、指紋認証もされていたのだった。
ハードディスクもスマホも置き場所を変えたら問題は解決だな。
そう思って頻尿気味の私はトイレに向かった。
深夜、このレコーダーの電源がひとりでに入っていることがある。
ちょっとしたパイロットランプの光でも頭上の暗闇で点灯すると驚くほど輝く。
説明書を熟読してもよくわからない。
生活パターンを学習して自動的に電源をON・OFFする機能もあるが、その設定は切った。
まあ、使えているので細かいことは気にしないようにした。
そんなこともあるさ。
若かかりし頃は自分の思うとおりに事が運ばない場合、頭に血が上り、怒りまくっていた。
でも、初老に片足をつっこむ年代になるともう細かいことは気にしなくなってきた。
次の日の朝、妻のケイコが私のために焼いてくれたトーストを皿に乗せながら言った。
「私のスマホ、寝ている間に勝手に電源が入るの。どういう事なんかね」
新聞を視界のはしに入れたまま生返事をする。
「うん」
「ちょっと聞いてる。この前買ったばかりなのに、これが初期不良だったらショック。また窓口に行っても1時間以上待たないとカウンターのお姉さんと話もできないのよ。いやになっちゃう」
(レコーダーに電源が入る、スマホにも電源が入る、こりゃおもしろい)
私は新聞8割、妻の話1割、残りの思考の隙間で一人うけていた。
ある日、しげしげとハードディスクの機械を観察していた。
天板上面右隅にはディスク開閉のボタンがある。
このボタンは知っている。
ディスクの開閉の時に使うからだ。
おや…
私の視線は釘付けになった。
天板上面左隅にスイッチがあったのだ。
この機械はおしゃれ気取りなのか、外見は何の出っ張りもないぬらりと光る一見ただの箱だ。
ボタンの存在もわかりにくい。
よく見るとボタンに説明が書かれている。
この字もまた小さい。
私は顔を近づけて、やっと読むことが出来た。
「電源」
ああ、これはメインスイッチだ。
いつも電源ONはリモコンを使う。
本体ボタンを使って電源をONにしたことは、これまで無かった。
私は何故電源が勝手に入るのか分かった。
電源が勝手に入る謎、それは…
私が寝ながらこのボタンを押している。
寝相の悪い私は片手を飛び出させてたまま寝返りを打つ癖がある。
これか…
では妻のスマホの電源が勝手に入るのは何故か…
私はその夜、妻の布団、妻の位置、スマホの位置を見た。
妻は翌日の着替えを頭の上に用意して眠る。
畳まれた服の上に電源が着られたスマホが置かれている。
深夜、私はローリング寝相によりハードディスクに電源が入ったのを自覚した。
寝ぼけ眼で主電源のパイロットランプを眺めた。
推理が正しかった事に少し満足感を覚えた。
ふと妻を見た。
夫婦はやっぱり似るのだな。
妻が片手を頭上にのばしながらごろごろと寝返りを繰り返す様を。
そしてミラクルも見た。
ちょうど、
ちょうどスマホの電源ボタンの上で寝返りの回転が逆になる様を。
人差し指はしっかりと確実に電源ボタンを長押し、電源が入った後、指紋認証もされていたのだった。
ハードディスクもスマホも置き場所を変えたら問題は解決だな。
そう思って頻尿気味の私はトイレに向かった。