アキヒロは最近はまっているネットのオークションサイトをチェックしていた。
自分の足で探すよりも効率よく、しかも安く入手できるところがアキヒロは大好きだった。
出品物が目に留まった。
自分の目を疑う。
出品物:「アキヒロの秘密」
(落札者以外には秘密厳守いたします)
現在入札額:10000円
新手の詐欺かなにかなのか?
気にはなったが、放置する事にした。
次の日、会社のデスクで書類を書いていると、後輩のユキオが話しかけてきた。
なんだか上機嫌だ。
「先輩、おはようございます。またパチンコに勝っちゃったんですよ。だからこれ思い切って買ったんです」
ずいっと腕を差し出した。
そこには王冠の印が燦然と輝く銀色の機械式時計がはまっていた。
「おまえこれ高かっただろう」
「ええ、まあ、でもパチンコに勝ったんで…」
2回同じことをユキオが言った。
とても一回パチンコに勝っただけで買える金額ではない。
金使いが荒いとは前々から感じていたが、この会社の安月給でやっていけるのかとこっちが心配になる。
その日の夜、ユキオの腕時計の価格を調べながらため息をつく。
今の給料の5倍くらいあったら購入も検討してもいいかな。
そうぼんやりと考えながら缶ビールをすする。
ため息をつく。
いやいや欲望は無限だ。
自分の器の見極めが大事だ。
そう思いながらも昨日のサイトをチェックしてみる。
あいかわらずアキヒロの秘密は出品されていた。
ただ落札額が3万円になっていた。
心臓が少しきゅっとなった。
いったい誰が落札しているのか。
新着の出品があった。
出品物:「ユキオの秘密」
現在入札額:「100円」
落札締め切り2分後
(入札額100円って…締め切りが2分後っていうのも急だな…)
この秘密シリーズの内容も気になった俺はキーボードを手元に引き寄せた。
そして「200円」と打ち込んだ。
「おめでとうございます。商品が落札されました」
商品はメールで送られてきた。
添付ファイルが添えられていた。
大きく丸が描かれた帳簿の写しと思われるページが数枚。
大きく×が描かれた先ほどと同じページの帳簿らしき書類数枚。
同じページの数字をよく見比べる。
あったものが消えている。
売り上げが消えているのだ。
そしてその商品の在庫が書類上消えている。
棚卸しをしたときセンターの在庫の数字と現物の数字が狂ってくる細工だ。
これはまず商品を持ち出す。
その持ち出した商品の入庫処理を消す。
その商品を現金で売る。
自分の懐に入れる。
まあ、横領だ。
これはユキオが横領を行っている証拠だ。
どうしてやろうか。
そう思うと同時に俺の秘密とはいったい何なのかという恐怖に襲われる。
次の日、俺はユキオと一緒に外回りに出かけた。
「あのヒゲ部長、秘密ですけど受付のおねえチャンが愛人らしいですよ。やりますよね。僕調べてるんですけどどうも不自然に羽振りが良すぎるんですよ、あのヒゲ」
ユキオはハンドルを握りながら上機嫌でこれから向かうお客さんの噂話を始めた。
車は赤信号で止まる。
俺は無言だ。
AMラジオからは何を売っているのか「今ならなんと、8980円。安い」
車内にアナウンサーの声がうつろに流れる。
俺は口を開く。
「お前、伝票操作してねえか」
ユキオの上半身がビクリとかすかに動いた。
「え、先輩、何言ってるんですか」
「とぼけるなよ。たとえば3日前たしか納品に行ったよな。お前あの伝票どうしたんだよ」
信号が青に変わった。
車は動かない。
しびれを切らした後続車が怒りのクラクションを鳴らし、あわててユキオはアクセルを踏んだ。
目をウロウロと泳がせながらユキオは言った。
「ああ、そういえばまだ伝票打ってなかったかも、うっかりしてました」
「うっかりってお前、お金もらってきたんだろう。入金した形跡がないのはどういうことなんだよ」
「……」
ユキオは黙った。
「その沈黙は横領を認めたということでいいな」
ユキオの顔面はみるみる真っ青になる。
「まあ、正直俺はどうでもいいんだ。正義感ぶるわけでもない。かってにすればいい。でも人間知ってしまったものを忘れる事はできなんだよな」
おれはユキオの目の前で右手の親指と人差し指をゆっくりと擦り合わせた。
「まあ、気持ちを見せてくれればいいから」
ユキオは目を見開いて助手席の俺を見た。
「ゆする気ですか」
「いやいや、そんな事は一言も言ってないよ」
おれはまた親指と人差し指をゆっくりと擦った。
「まあ、定期的に気持ちを見せてくれればいいから」
二人の思惑を乗せて車はわずかに蛇行しながら進んでいく。
出品物:「アキヒロの秘密」
現在入札額:「50000円」
スマホの画面を見て俺は正直めまいがした。
誰が入札しているのか知らないが金額が上がっている。
ユキオの件もある。
どんな重要な秘密が語られるの心配になった俺は慌てて入札に参加することにした。
「55000円」と俺は入力した。
そうするとすぐに入札額は「60000円」になった。
誰なんだ。
「65000円」
「70000円」
「75000円」
「80000円」
金額が上がり続ける。
最終的に150000円で落札する事が出来た。
「おまでとうございます。商品が落札されました」
添付ファイルとして画像データが送られてきた。
ダブルクリックする。
血にまみれたナイフを握りしめた俺が死体の横で立っている。
「撮られたのか…」
絶句した。
握ったナイフの感触が手によみがえる。
あいつが悪いんだ。
ユキオがおとなしく金を出さないから。
いやそれ以上に俺に襲いかかってきた。
「殺してやる!」
そう叫んだユキオの声が耳から離れない。
路上深夜の出来事だった。
俺は逃げ帰った。
次の日は怪しまれないようにいつもと同じように出社した。
ユキオの無断欠席を上司が不審がっていたが連絡がつかない以上しょうがない。
1週間が過ぎてもユキオの行方が分からなかった。
俺は内心こう思っていた。
(死体が発見されないのはどうしてなんだ?)
少し田舎道に入ったところでユキオとはあの夜、落ち合ったが、道下に死体を転がしただけで、日中であれば死体は容易に発見されるはずだ。
何故だ?
その直後新たな出品があった。
出品物:「アキヒロの秘密その2」
現在入札額:「50万」
出品者の陰が俺の背後にひたひたと忍び寄る。
自分の足で探すよりも効率よく、しかも安く入手できるところがアキヒロは大好きだった。
出品物が目に留まった。
自分の目を疑う。
出品物:「アキヒロの秘密」
(落札者以外には秘密厳守いたします)
現在入札額:10000円
新手の詐欺かなにかなのか?
気にはなったが、放置する事にした。
次の日、会社のデスクで書類を書いていると、後輩のユキオが話しかけてきた。
なんだか上機嫌だ。
「先輩、おはようございます。またパチンコに勝っちゃったんですよ。だからこれ思い切って買ったんです」
ずいっと腕を差し出した。
そこには王冠の印が燦然と輝く銀色の機械式時計がはまっていた。
「おまえこれ高かっただろう」
「ええ、まあ、でもパチンコに勝ったんで…」
2回同じことをユキオが言った。
とても一回パチンコに勝っただけで買える金額ではない。
金使いが荒いとは前々から感じていたが、この会社の安月給でやっていけるのかとこっちが心配になる。
その日の夜、ユキオの腕時計の価格を調べながらため息をつく。
今の給料の5倍くらいあったら購入も検討してもいいかな。
そうぼんやりと考えながら缶ビールをすする。
ため息をつく。
いやいや欲望は無限だ。
自分の器の見極めが大事だ。
そう思いながらも昨日のサイトをチェックしてみる。
あいかわらずアキヒロの秘密は出品されていた。
ただ落札額が3万円になっていた。
心臓が少しきゅっとなった。
いったい誰が落札しているのか。
新着の出品があった。
出品物:「ユキオの秘密」
現在入札額:「100円」
落札締め切り2分後
(入札額100円って…締め切りが2分後っていうのも急だな…)
この秘密シリーズの内容も気になった俺はキーボードを手元に引き寄せた。
そして「200円」と打ち込んだ。
「おめでとうございます。商品が落札されました」
商品はメールで送られてきた。
添付ファイルが添えられていた。
大きく丸が描かれた帳簿の写しと思われるページが数枚。
大きく×が描かれた先ほどと同じページの帳簿らしき書類数枚。
同じページの数字をよく見比べる。
あったものが消えている。
売り上げが消えているのだ。
そしてその商品の在庫が書類上消えている。
棚卸しをしたときセンターの在庫の数字と現物の数字が狂ってくる細工だ。
これはまず商品を持ち出す。
その持ち出した商品の入庫処理を消す。
その商品を現金で売る。
自分の懐に入れる。
まあ、横領だ。
これはユキオが横領を行っている証拠だ。
どうしてやろうか。
そう思うと同時に俺の秘密とはいったい何なのかという恐怖に襲われる。
次の日、俺はユキオと一緒に外回りに出かけた。
「あのヒゲ部長、秘密ですけど受付のおねえチャンが愛人らしいですよ。やりますよね。僕調べてるんですけどどうも不自然に羽振りが良すぎるんですよ、あのヒゲ」
ユキオはハンドルを握りながら上機嫌でこれから向かうお客さんの噂話を始めた。
車は赤信号で止まる。
俺は無言だ。
AMラジオからは何を売っているのか「今ならなんと、8980円。安い」
車内にアナウンサーの声がうつろに流れる。
俺は口を開く。
「お前、伝票操作してねえか」
ユキオの上半身がビクリとかすかに動いた。
「え、先輩、何言ってるんですか」
「とぼけるなよ。たとえば3日前たしか納品に行ったよな。お前あの伝票どうしたんだよ」
信号が青に変わった。
車は動かない。
しびれを切らした後続車が怒りのクラクションを鳴らし、あわててユキオはアクセルを踏んだ。
目をウロウロと泳がせながらユキオは言った。
「ああ、そういえばまだ伝票打ってなかったかも、うっかりしてました」
「うっかりってお前、お金もらってきたんだろう。入金した形跡がないのはどういうことなんだよ」
「……」
ユキオは黙った。
「その沈黙は横領を認めたということでいいな」
ユキオの顔面はみるみる真っ青になる。
「まあ、正直俺はどうでもいいんだ。正義感ぶるわけでもない。かってにすればいい。でも人間知ってしまったものを忘れる事はできなんだよな」
おれはユキオの目の前で右手の親指と人差し指をゆっくりと擦り合わせた。
「まあ、気持ちを見せてくれればいいから」
ユキオは目を見開いて助手席の俺を見た。
「ゆする気ですか」
「いやいや、そんな事は一言も言ってないよ」
おれはまた親指と人差し指をゆっくりと擦った。
「まあ、定期的に気持ちを見せてくれればいいから」
二人の思惑を乗せて車はわずかに蛇行しながら進んでいく。
出品物:「アキヒロの秘密」
現在入札額:「50000円」
スマホの画面を見て俺は正直めまいがした。
誰が入札しているのか知らないが金額が上がっている。
ユキオの件もある。
どんな重要な秘密が語られるの心配になった俺は慌てて入札に参加することにした。
「55000円」と俺は入力した。
そうするとすぐに入札額は「60000円」になった。
誰なんだ。
「65000円」
「70000円」
「75000円」
「80000円」
金額が上がり続ける。
最終的に150000円で落札する事が出来た。
「おまでとうございます。商品が落札されました」
添付ファイルとして画像データが送られてきた。
ダブルクリックする。
血にまみれたナイフを握りしめた俺が死体の横で立っている。
「撮られたのか…」
絶句した。
握ったナイフの感触が手によみがえる。
あいつが悪いんだ。
ユキオがおとなしく金を出さないから。
いやそれ以上に俺に襲いかかってきた。
「殺してやる!」
そう叫んだユキオの声が耳から離れない。
路上深夜の出来事だった。
俺は逃げ帰った。
次の日は怪しまれないようにいつもと同じように出社した。
ユキオの無断欠席を上司が不審がっていたが連絡がつかない以上しょうがない。
1週間が過ぎてもユキオの行方が分からなかった。
俺は内心こう思っていた。
(死体が発見されないのはどうしてなんだ?)
少し田舎道に入ったところでユキオとはあの夜、落ち合ったが、道下に死体を転がしただけで、日中であれば死体は容易に発見されるはずだ。
何故だ?
その直後新たな出品があった。
出品物:「アキヒロの秘密その2」
現在入札額:「50万」
出品者の陰が俺の背後にひたひたと忍び寄る。